利用報告書

双安定性を示す分子性伝導体の極低温構造解析
高橋一志
神戸大学大学院理学研究科

課題番号 :S-17-MS-1053
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :双安定性を示す分子性伝導体の極低温構造解析
Program Title (English) :Crystal structure analysis of a bistable molecular conductor at very low temperature
利用者名(日本語) :高橋一志
Username (English) :K. Takahashi
所属名(日本語) :神戸大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science, Kobe University

1.概要(Summary )
 これまで利用者はスピンクロスオーバー現象により電気伝導性や磁性を制御することを成功した複合機能性スピンクロスオーバー錯体の開発を行ってきた。本研究では100 K付近に温度ヒステリシスを伴う電気伝導性ならびにスピンクロスオーバー転移を示すことが示唆されている新規分子性導体の伝導性と磁性とのカップリングメカニズムを明らかにするためには、転移温度以下での単結晶構造解析が必要である。100 K以下は窒素ガス吹き付けタイプの冷凍機では到達することができない温度領域であるため、分子研のミクロ単結晶/Rigaku 4176F07とヘリウム冷凍機を組み合わせたシステムを用い、室温から極低温まで転移温度をまたいだ温度領域での単結晶X線構造解析の検討を行った。
2.実験(Experimental)
 スピンクロスオーバー伝導体の原料となる1:1錯体を複分解反応で合成し、得られた錯体をアセトニトリル溶液中定電位電解することにより黒色針状晶として伝導性スピンクロスオーバー錯体を得た。ミクロ単結晶/Rigaku 4176F07とヘリウム冷凍機を組み合わせたシステムを用い単結晶X線構造解析の温度変化を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 昨年度の実験において、吹き付け型冷凍機の気流の軸とX線回折装置上の結晶の軸とがあっていないことが示唆された。そこで、技術職員岡野氏に結晶の回転軸の調整後、ショ糖の単結晶を用いて室温と100 Kでの単結晶X線構造解析を行っていただいた。ショ糖の構造解析結果は、室温でR = 3.26%、100 KでR = 2.59%となり、いずれの温度でも構造解析に成功し、軸が正しく調整されていることが確認された。そこで、スピンクロスオーバー伝導体の単結晶X線構造解析を室温で行った。構造解析の結果をCheckCIFで用いて確認すると、これまでと同様に金属周りに大きな電子密度の残差があるとのアラートが出てしまうことが分かった。そこで、データ収集法ならびに吸収補正などの解析法により改善できるのではないかと考え、検討を行うことにした。これまでの一番良いデータである293, 35 Kでの回折データをCrysAlisProを用いて再収集したデータをCrystalStructureにより通常通りの解析を行ったところ、アラートのない構造解析結果を得ることに成功した。これらの得られた結晶構造を比較することで、低温相では低スピン状態、高温相では高スピン状態に典型的な結合長、結合角であり、ほぼ完全なスピンクロスオーバーを示すことが明らかになった。また、結晶構造に基づくバンド計算からいずれの相でも擬一次元的なフェルミ面を持つことが分かり、これまで得られたスピンクロスオーバー伝導体の中でも高い電気伝導性を示す理由と考えられる。
4.その他・特記事項(Others)
 本研究は科研費基盤研究(C)25410068 により行われた研究である。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。(投稿準備中)
6.関連特許(Patent)
なし。

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