利用報告書

反転対称性の破れた反強磁性体における精密輸送特性測定に向けた試料加工法の確立
浦田隆広, 竹内啓喜(名古屋大学大学院工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1006
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :反転対称性の破れた反強磁性体における精密輸送特性測定に向けた試料加工法の確立
Program Title (English) :Fabrication of sample for precise transport measurements on noncentrosymmetric antiferromagnets
利用者名(日本語) :浦田隆広1), 竹内啓喜1)
Username (English) :T. Urata1), H. Takeuchi1)
所属名(日本語) :1) 名古屋大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Department of Engineering, Nagoya University

1.概要(Summary )
最近、物質に電流を印加する向きによって抵抗が変化する、非相反伝導と呼ばれる現象に注目が集まっている。この現象が生じるためには、物質中で空間(IS)及び時間反転対称性(TRS)が破れている必要がある。  これまで、ISが破れた物質に磁場を印加し、TRSも破ることで、非相反伝導の発現が報告されている[T. Ideue et al., Nat. Phys. (2017)]。一方、特殊な点群を持つ磁気秩序によってもこれら2つの対称性は破られる。ここから、ゼロ磁場での非相反伝導が予想されるが、未だその検証は成されていない。本研究では、この実証を目的に、CaMn2Bi2の詳細な伝導特性測定を行う。この物質は、ネール温度(TN)を150 K付近に持つ反強磁性体であり、TN以下ではIS及びTRSが破れることが中性子回折実験及び理論から示唆されている[Q. D. Gibson et al., PRB (2015), H. Watanabe and Y. Yanase, PRB (2017)]。

2.実験(Experimental)
試料はCaMn2Bi2の単結晶を用いた。レーザー加工に先立ち、結晶方位を透過ラウエ測定から決定し、研磨により結晶を薄片化した。薄片化した試料はサファイア基板にエポキシ系接着剤で固定した。レーザー加工には、機器センター保有のピコ秒レーザー発振器及び光学系を使用した。PCと接続したXYステージを用い、試料を任意の形状に切り出した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 図(左)に、レーザー加工後の試料写真を示す。前年度よりも高い精度で加工を行うことができた。得られた試料で伝導測定を行ったが、現時点では非相反伝導と決定できるシグナルは観測出来ていない。この原因について考察を深めるために、磁気抵抗効果の角度依存性を測定した。図(右)に、様々な温度で磁場をab面内で回転させて測定した結果を示す。明瞭な2回対称の振る舞いが観測されたが、ネール温度の前後で形状が殆ど変化しなかった。反強磁性秩序が伝導電子に与える影響が小さいことが示唆される。今度は、より磁性と伝導電子の結合が強い物質の開拓を行っていく予定である。

4.その他・特記事項(Others)
ピコ秒レーザーの利用に関しては分子科学研究所技術職員の上田様にお世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 竹内啓喜ら、2020年日本物理学会秋季大会、令和2年9月
(2) 髙橋祐輔ら、2020年日本物理学会秋季大会、令和2年9月
(3) 髙橋祐輔ら、日本物理学会第76回年次大会、令和3年3月
(4) 浦田隆広、新学術領域研究「量子液晶の物性科学」 量子物質開発フォーラム

6.関連特許(Patent)
なし。

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