利用報告書

固液界面におけるエネルギーハーベスティング応用に向けたグラフェン膜転写、および機能化プロセスの開発
岡田 健1)
1) 東北大学大学院工学研究科電子工学専攻

課題番号                :S-19-NI-0013

利用形態                :共同研究

利用課題名(日本語)    :固液界面におけるエネルギーハーベスティング応用に向けたグラフェン膜転写、および機能化プロセスの開発

Program Title (English) :Development of large scale graphene transfer and functionalization process for energy harvesting application at the solid-liquid interface

利用者名(日本語)      :岡田 健1)

Username (English)     :T. Okada1)

所属名(日本語)        :1) 東北大学大学院工学研究科電子工学専攻

Affiliation (English)  :1) Department of Electronic Engineering, Tohoku University

 

 

1.概要(Summary )

次世代材料として期待されているグラフェンは大面積合成が可能になり、物性探求やデバイス作製等の検討を行う際には任意の基板に転写して用いることが多い。本申請では転写プロセスの最適化を図り、転写グラフェンを用いたグラフェン-水界面における発電について評価を行った。

 

2.実験(Experimental)

グラフェン・カーボンナノチューブ合成装置を使用し、大面積グラフェン膜の合成を行った。また、所望の基板を用いたグラフェン膜転写プロセスの最適化検討を行った。グラフェンの合成は銅箔を用いた化学気相蒸着法によって行った。またグラフェンの転写プロセスにおいては、まずグラフェン膜をポリマーでコーティングし、塩化鉄溶液を用いて銅箔を化学的に除去した。この除去プロセスの処理時間、溶液濃度の最適化を行った。さらに基板に転写する際に残留試薬除去するために、硝酸溶液を用いた検討を行った。さらに、ポリマーの除去プロセスの検討を行った。まず、アセトン溶液で十分な時間をかけポリマーを溶解した。その後、アルゴン水素雰囲気下において300℃のアニール処理を行った。上記の転写プロセスは原子間力顕微鏡(AFM)で評価した。さらにグラフェンに窒素ビームを用いたドーピングを行い、界面発電現象に関する評価を行った。

 

3.結果と考察(Results and Discussion)

図1にシリコン基板上に転写したグラフェンのラマンスペクトルとAFM像を示す。特徴的な3つのピークは低波数からそれぞれD、G、2Dバンドであり、シャープなピーク形状から高品質グラフェンであることがわかる。また、アルゴン水素雰囲気化におけるアニールによって、図1(右)に示すように清浄な表面を得ることに成功した。つまり。水素雰囲気下のアニールによって残留不純物のみを除去することが可能であり、グラフェンの物性探求に最適な状態を作る出すことに成功した。

このようにして得られたグラフェンに窒素ビームを用いた窒素ドーピングを行った。窒素ドーピングによって得られるグラフェンの結合状態は置換反応によって得られる単結合のGraphitic型と二重結合が存在するPyridinic型がある。本研究では窒素ビームのエネルギーを変化させ、それぞれの結合状態を持つグラフェンを選択的に合成し発電への影響を調査した。グラフェン、および窒素ドープグラフェンを用いて、水-グラフェン界面における発電について検証をおこなった結果を図2に示す。図2(a)にあるように、ノンドープグラフェン(Pristine)に比べ、窒素をドープしたグラフェン(Pyridine型とGraphitic型)では約3倍の起電力を示し、異なる結合状態間では大きな差が観察されなかった。しかしこのときの電気抵抗は、Graphitic型がPyridine型よりも数桁低いことがわかった(図2(b))。発電時にデバイスに流れる電流はこのときの電気抵抗によって制限を受ける。その結果として、図2(c)に示すように発電量はPyridine型でほぼゼロとなった。つまり、窒素ドーピングの結合状態は、起電力にはそれほど違いを示さないものの、発電デバイスとして評価した場合、Graphitic型窒素ドープグラフェンの方が優れていることが明らかになった。

以上のように、グラフェン・カーボンナノチューブ合成装置を用いて合成したグラフェンは大面積化が可能であり、高品質であること、また転写プロセスにおいても清浄な表面を担保できることが実証できた。水とグラフェンがつくる界面において窒素をドープしたグラフェンが効率よく発電することが明らかになった。特に、窒素結合状態の選択合成といった精密な検討は高品質なグラフェンの大面積転写によってはじめて可能になった成果だと言える。

 

4.その他・特記事項(Others)

なし。

 

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)

(1) T. Okada, G. Kalita, M. Tanemura, I. Yamashita, F. S. Ohuchi, M. Meyyappan, and S. Samukawa, 8th International Symposium on Control of Semiconductor Interfaces, 令和元年11月29日 口頭発表

(2) T. Okada, G. Kalita, M. Tanemura, I. Yamashita, F. S. Ohuchi, M. Meyyappan, and S. Samukawa, 32nd International Microprocesses ad Nanotechnology Conference, 令和元年10月29日 口頭発表

(3) 岡田 健,カリタ ゴラップ,種村眞幸,山下一郎、F. S. Ohuchi, M. Meyyappan、寒川 誠二, 第80回応用物理学会秋季学術講演会, 令和元年9月18日 口頭発表

(4) T. Okada, G. Kalita, M. Tanemura, I. Yamashita, F. S. Ohuchi, M. Meyyappan, and S. Samukawa, Materials Research Society 2019 Fall Meeting & Exhibit, 令和元年12月3日 ポスター発表

 

6.関連特許(Patent)

なし。

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