利用報告書

多元素金属クラスター酵素HCPの反応休止状態、基質結合状態、反応中間体のEPRスペクトル測定
藤城貴史(埼玉大学大学院理工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1018
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :多元素金属クラスター酵素HCPの反応休止状態、基質結合状態、
反応中間体のEPRスペクトル測定
Program Title (English) :Measurements of EPR spectra of substrate-free, substrate-bound,
and intermediate states of HCP with a multi-elemental cluster
利用者名(日本語) :藤城貴史
Username (English) :T. Fujishiro
所属名(日本語) :埼玉大学大学院理工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science and Engineering, Saitama University

1.概要(Summary )
Hybrid cluster protein (HCP)は、鉄、硫黄、酸素からなる特殊な金属クラスター(Hybrid cluster)を活性中心とする金属酵素であり、嫌気性細菌や古細菌、一部の嫌気的環境に生息する単細胞真核生物において、NO代謝や酸化ストレス応答に関与しているとされる。これまでHCPのタンパク質立体構造、および、Hybrid clusterの構造は明らかとされたが、その生理的役割や、生理的基質は明らかとなっていない。そこで、そこで、本研究では、基質の候補とされる一酸化窒素(NO)やNH2OHとHCPとの反応性を調べるため、様々な生物種のHCPを精製し、それらのEPRスペクトル測定による性状解析を行うこととした。

2.実験(Experimental)
 分子科学研究所のEPR測定装置E500およびEMX plusを利用し、cryostat 910もまた極低温測定のため利用した。サンプルは、嫌気的に精製したHCPをEPR試料管につめ、液体窒素で凍結させたものを用いた。測定は、4-60 Kの範囲で試し、スペクトルの温度変化を観測した。また、Na-dithioniteで還元したHCPも、還元型HCPとして測定した。NO混合型のHCPサンプルは、NONOateを終濃度1 mMとなるようにHCPに加え、一定時間おいて反応させたものを利用した。NH2OH混合型HCPも終濃度1 mMとなるようHCPに加え、一定時間おいて反応させたものを利用した。上記はどちらもそれぞれNa-dithioniteを加えたもの、加えていないものを測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 HCPの測定では、g = 2付近にシグナルが観測され、これはhybrid clusterのものと推定された。一方還元型HCPでは、Hybrid clusterと異なるシグナルが、g =2付近に観測され、こちらは[4Fe-4S]クラスターまたは[2Fe-2S]クラスターと考えられた。温度変化に伴うシグナル変化がほとんど見られなかったことから、これは[2Fe-2S]クラスターと示唆されたが、並行して進めたX線結晶構造解析により、このシグナルは[2Fe-2S]ではなく[4Fe-4S]クラスター由来であることが決定された。[4Fe-4S]クラスターで温度依存の変化がほとんど見られないケースは少なく、その理由については、今後の検討が必要である。一方、NO, NH2OH混合型は、どの場合でもシグナルが見られなかった。これは、反応でHybrid clusterまたは[4Fe-4S]クラスターが壊れてしまったのか、あるいは、反応してEPR silent種になったのかは現状判別できないため、今後さらなる実験が必要である。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は、分子科学研究所の藤原基康様、伊木志成子様、浅田瑞枝様のサポートのもの行われました。この場をお借りして御礼申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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