利用報告書

多周波EPR法を用いた光合成酸素発生系高酸化状態の解析
三野広幸1),長嶋宏樹1), 古川貢2), 秋田総理3), 中島芳樹3)
1) 名古屋大学理学研究科,2)新潟大学理学部3) 岡山大学理学研究科

課題番号 :S-16-MS-1012
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :多周波EPR法を用いた光合成酸素発生系高酸化状態の解析
Program Title (English) :High spin state of oxygen evolving complex investigated by multi-frequency EPR利用者名(日本語) :三野広幸1),長嶋宏樹1), 古川貢2), 秋田総理3), 中島芳樹3)、
1)Username (English) :H. Mino1), H. Nagashima1), K. Furukawa2), S. Akita3), Y Nakajima3),
所属名(日本語) : 1) 名古屋大学理学研究科,2)新潟大学理学部3) 岡山大学理学研究科
Affiliation (English) :1) Grad. School of Sci, Nagoya Univ.,2) Fac. of Sci., Niigata
3) Grad. School of Natural Sci. and Tech., Okayama University

1.概要(Summary )
光合成反応は光エネルギーを化学エネルギーに変換する多くの反応からなる過程である。なかでも光合成の酸素発生機構は光合成研究における最大の謎とされ、長年多くの研究が行われてきた。 最近、この酸素発生反応の研究において大きなブレークスルーがあった。岡山大学の沈のグループにより酸素発生を行う光化学系Ⅱタンパク質複合体のX線結晶構造解析が1.9Åの分解能でなされた(Umena et al. nature 2011)。しかし、反応機構はまだわかっていない。 酸素発生機構というのは4光子、5つの中間状態(S0 からS4)の絡む反応であり、プロトンの放出や構造変化を伴いながら反応が進行する。 結晶構造解析で明らかになった構造はそのうち最も安定な中間状態(S1 状態)であり、その構造がどのように変化して酸素発生を導くのかは依然謎である。 特に酸素発生時のクラスターの構造変化(S3⇒S0)は最重要である。  S3 状態については現在でもマンガンの価数などの論争が続いており状態が明らかになっていない。 2017年度沈らのグループはX線自由電子レーザーを用いてS3状態の構造を発表している(nature)。本研究はX線結晶解析と同じ試料を同じ条件のEPRでとらえ、磁気構造及び相補的な情報を得ることを目的としている。

2.実験(Experimental)
酸素発生系マンガンクラスターは異なる酸化状態(S0-S4)を持ち、高酸化状態であるS3 状態での光反応において酸素分子を生成する。 S3 状態は整数スピンであり、X-bandでは低磁場でのみ観測可能であるが、高周波であるW-bandESR を用いることにより得られるEPR信号から詳細な構造情報が得られることが期待できる。 更に光化学系Ⅱの結晶を用いることによってS3状態でのマンガンの価数および配位子の情報を引き出すことが可能と考えられる。 また、光化学系Ⅱの結晶は非常に小さくスピン量も少ないためW-band でのみ測定が可能である。

3.結果と考察(Results and Discussion)
本年度後半よりW-bandの装置が稼働し、測定を開始している。昨年度光化学系Ⅱ溶液試料を用いてW-band ESR(E580)を用いてS3状態の検出に成功し、溶液条件での最適な測定条件および光照射の条件をみいだしている。  そして、結晶測定へと進めている。 岡山大学の沈グループではSACLAを用いて高い酸化状態での酸素発生系の構造解析を行っているが、微結晶を用いたSACLAと同条件での酸素発生系の進行をW-bandを用いてモニターしている。 酸素発生系の酵素反応サイクルの遷移の確認のためにはW-bandによる測定は数少ない有効な手法であり、レーザー照射条件や試料濃度など、微結晶での効率の良い条件を探している。 E680機はQ-bandパルスESRも装備されており、主にQ-bandを用いて別方面からも実験を進めている。 現在、パルスENDORによりマンガン由来の信号の検出に成功し新たな知見を得ている。 これと並行して、光合成制御センサータンパク質について新しい知見を得ている。  これらの2つの成果は現在論文投稿準備中である。

4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
第54回電子スピンサイエンス学会年会、第58回植物生理学会年会 など
6.関連特許(Patent)
なし

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