利用報告書

多孔質界面での流体ダイナミクスに基づくハイブリッド触媒の創製
三浦佳子1)、 松本光1)2)
1)九州大学大学院工学研究院、 2) 日本学術振興会

課題番号 :S-20-JI-0018
利用形態 :技術代行支援
利用課題名(日本語) :多孔質界面での流体ダイナミクスに基づくハイブリッド触媒の創製
Program Title (English) :Preparation of hybrid catalyst with fluid dynamics at the porous materials interfaces
利用者名(日本語) :三浦佳子1)、 松本光1)2)
Username (English) :Yoshiko Miura1)、 Hikaru Matsumoto1)2)
所属名(日本語) :1)九州大学大学院工学研究院、 2) 日本学術振興会
Affiliation (English) :1) Dept of Eng., Kyushu Univ.、 2) Japan Society for the Promotion of Science

1. 概要(Summary )
現在、ファインケミカルの新しい合成手法として、連続流通式のフローリアクターが注目されている。フローリアクターでは、物質の生産量は流す溶液量によって決定されるためスケールアップも従来型のリアクターに比べて容易である。
フローリアクターは注目が集まる一方で、大きな欠点もある。フローリアクターでは管型の反応装置に溶液を流通させて合成する装置である。そのため、従来型のバッチ式のリアクターのように溶液は滞留しない。触媒を用いても、流通装置では流れ出してしまい、繰り返し用いることができない。
フローリアクターで触媒を繰り返し用いるために、流通層に固定化触媒を用いることが考えられる。多くの場合、シリカゲルなどの微粒子に触媒が固定化されている。しかし、微粒子への触媒の固定化は圧力損失が大きくなり必ずしもフロー合成装置には適していない。
本研究では有効表面積が大きく、流通抵抗も低い物質として多孔質高分子を担体とした固定化触媒の開発とそれを通じたフロー反応について検討を行った。固定化触媒として、トリフェニルホスフィン(TPP)のスチレン誘導体を用いて、多孔質ポリスチレン固定化触媒の調製、Pd配位触媒の調製、それを用いた鈴木宮浦カップリングのフロー合成について検討を行った。触媒については、しばしば流通反応で、漏出や粒子形成、金属イオン架数の違いによる活性の変化が認められる。触媒の調製時、合成使用後について触媒の解析を行い、フローリアクター用の固定化触媒として、基礎的な設計に対する知見を得た。

2.実験(Experimental)
スチレン型のトリフェニルホスフィン誘導体は、過去の文献に従って合成した。これをジビニルベンゼン、tert-ブチルスチレンとともに重合した。多孔質体を得るために、モノマーをジクロロメタンに溶解させた上で水を加えてエマルションとし、エマルション状態でのラジカル重合によって多孔質体を得た(Scheme 1)。その後、Pdを配位させて固定化触媒の調製を行った。
得られた固体触媒については、形状、孔径、圧力損失などの多孔質体特有の物性について検討した。その後、フローリアクターとして調製し、クロロトルエン、フェニルボロン酸の鈴木宮浦カップリングを行った(Scheme 2)。
触媒の調製前後、また反応後で、TEM観察、X線分光解析(JAIST, Shimadzu-Kratos, AXIS-ULTRA DLD)によって、触媒の解析を行った。

Scheme1 多孔質ポリスチレン固定化TPPの合成。

3.結果と考察(Results and Discussion)
① 多孔質固定化触媒の調製
エマルション状態で重合することによって、空隙率が非常に高い(74-99 %)固定化TPPを得ることができた(Figure 1)。PdCl2(PhCN)2を添加することで、TPP-PdのモノP配位型の固定化触媒を得た。孔径は4-10μm程度と大きく、有機溶媒の透過度は10-14 m2と高く、フロー合成に利用可能な高い透過性能を発揮する材料を調製した。

Figure 1 多孔質スチレンーTPP触媒のSEM観察

② 固定化触媒の調製
PdCl2(PhCN)2の溶液を加えることで、多孔質高分子中のTPPに対してPdを配位させて、TPP-Pd固定化触媒を調製した。Pdの固定化について、TEM、XPSによる元素分析によって、確認を行った。XPSのPd分析では3d起動のピークを用いた。

③ フローリアクターへの適応
TPP-Pd多孔質高分子固体触媒に対するフローリアクターの反応を検討した。塩化アリールのクロスカップリングは困難であるが、93%と高い収率を達成することができた。また、滞留時間、線流速を変化させて、反応条件を最適化した。

④ 反応後の触媒の解析
フローリアクターとして6時間用いたのちに、固体触媒の変化について解析を行った。XPS、TEMによる解析、ICPによる漏出の解析を行った。
XPSにおいてはPdの存在が認められ、反応後も触媒としてPdが固定化されていることを確かめた。ICPによるとPdの漏出は一切認められなかった。TEM解析によると、Pdの粒子成長がややみられることがわかった。粒子成長はジビニルベンゼンを増加させることで抑制傾向にあることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は科研費 新学術領域 ハイブリッド触媒(JP20H04825)の助成を受けて実施されました.代行実験していただいた木村技官に感謝します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
<論文>Matsumoto, H., Hoshino, Y., Iwai, T., Sawamura, M., & Miura, Y、Ind. Eng. Chem. Res, 2020, 59, 15179-15187.
<学会>ホスフィンリガンドを固定した多孔質モノリスによる精密フロー合成、口頭、松本 光、星野 友、三浦 佳子、岩井 智弘、澤村 正也、化学工学会第51回秋季大会、2020年9月25日

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