利用報告書

層状ペロブスカイト酸化物におけるSnの原子価および局所構造
吉田傑1), 壬生攻2),藤田晃司1)
1)京都大学大学院工学研究科, 2)名古屋工業大学工学研究科

課題番号 :S-16-NI-16
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :層状ペロブスカイト酸化物におけるSnの原子価および局所構造
Program Title (English) :Valence state and local structure of Sn in layered perovskite oxides
利用者名(日本語) :吉田傑1), 壬生攻2),藤田晃司1)
Username (English) :S. Yoshida1), K. Mibu2), K. Fujita1)
所属名(日本語) :1)京都大学大学院工学研究科, 2)名古屋工業大学工学研究科
Affiliation (English) :1)Graduate School of Engineering、Kyoto University, 2) Graduate School of Engineering, Nagoya Institute of Technology

1.概要(Summary )
近年、層状ペロブスカイト化合物において、酸素八面体回転によって反転対称性が破れ、副次的なカチオン変位が誘起されて自発分極を生じる機構が提唱されている。酸素八面体回転はカチオンの電子配置とは無関係に起こり、ペロブスカイト関連化合物において最もありふれた構造歪みであるため、特定のカチオンに依存しない強誘電体の開拓が可能となる。本研究では、Snを含む層状ペロブスカイト酸化物に対して詳細な構造解析を行い、この化合物が酸素八面体回転歪みにより強誘電性を示すこと明らかにした。

2.実験(Experimental)
Snを含む層状ペロブスカイト酸化物を固相反応により合成した。Snの原子価を調べるため、室温での191Snメスバウアー効果を透過法により測定した。結晶構造解析には、SPring-8のBL02B2で得られた放射光X線回折 (SXRD)データと英国ISISのHRPDで測定した飛行時間型中性子回折(ND)データを用いた。さらに、空間反転対称性の破れを確認するため、光源としてフェムト秒パルスレーザー( = 800 nm)を用いて光第二高調波発生(SHG)を測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
室温メスバウアースペクトルのアイソマーシフトの値 (IS ~ 0.01 ms/s) から、作製した層状ペロブスカイト酸化物にはSn4+のみが存在することが確認された(Fig. 1)。SXRDパターンへの指数付けを行い、消滅則から空間群の候補をCmc21 (強誘電相)とCmcm (常誘電相) に絞り込んだ。両者は長軸まわりの酸素八面体回転の様子がわずかに異なる。両構造モデルに基づくリートベルト解析では一義的に空間群を決定するには至らなかったが、酸素位置に敏感なNDパターンと室温SHG観察から、この化合物が室温で極性空間群Cmc21に帰属される新規強誘電体であるとわかった。

Fig.1: Snを含む層状ペロブスカイト酸化物の室温メスバウアースペクトル

4.その他・特記事項(Others)
参考文献 N.A. Benedek and C. J. Fennie, Phys. Rev. Lett. 106, 107204 (2011); H. Akamatsu, K. Fujita et al., Phys. Rev. Lett. 112, 187602 (2014).
謝辞 本研究の一部は、科学研究費補助金・基盤研究B (No. 16H04496)、挑戦的萌芽研究 (No. 16K14386)、科学研究費補助金・新学術領域研究・公募研究 (No. 26106514)の助成を受けて行った。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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