利用報告書
課題番号 :S-20-NI-15
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :層状複水酸化物(LDH)の次世代ニッケル電池正極としての利用
Program Title (English) :Charge-discharge mechanism of layered double hydroxide (LDH) as a positive electrode for nickel- battery
利用者名(日本語) :園山範之
Username (English) : N. Sonoyama
所属名(日本語) :名古屋工業大学 大学院工学研究科
Affiliation (English) :Department of Life and Applied Chemistry, Nagoya Institute of Technology
1.概要(Summary )
現行のアルカリ蓄電池は、正極にβ-Ni(OH)2を用いたものが一般的である。β-Ni(OH)2は強アルカリ下でも安定した構造を有しており、充放電に伴う構造及び体積変化が小さいことから、優れたサイクル特性を示す。水酸化ニッケルにはβ型の水酸化物層間が開いて間に水分子が挿入されたα-Ni(OH)2が知られているが、この相はアルカリ中で不安定なために充放電中にβ型に転移した後分解するため、安定した充放電特性を示さない。そこで、α-Ni(OH)2と類似した構造を有する層状複水酸化物(LDH)が注目されている。LDHは、β-Ni(OH)2と同等の層状水酸化物ブルッカイト構造(Mg(OH)2)構造の金属イオンサイトに二価金属イオンと三価(または四価)金属イオンがランダムに占有し、陽電荷の過多を補償するために水酸化物層の間に陰イオンと水が挿入された構造を有している。つまり、LDHは最初からα-Ni(OH)2の様に金属水酸化物層間距離が大きく、層間が陰イオンにより安定化しているため安定性の高い充放電が期待出来る。本研究では充放電過程のLDHに対してXRD、XAFS測定を行うことにより、充放電中のLDHの構造変化を調べた。
2.実験(Experimental)
試料はHai-Tao Xuらの方法[1] を参考に、ソルボサーマル法にて合成を行った。エチレングリコール(25 mL)、アンモニア水 (10 mL)、Na2CO3水溶液 (1 M, 5 mL) を混合し、金属イオン (Ni2+,Fe3+ or Ni2+,V3+) 混合水溶液を加えた。その後、オートクレーブ容器を用いて、任意の時間 (0−18 h) 170℃にて結晶成長を行った。
電極作製は合成した試料をアセチレンブラック(AB)、PTFEと混合し、カーボンペーパー基材に塗布し、電極とした。電解液としてKOH 6 M水溶液を使用し、ビーカーセルにて、WE : LDH電極、CE : Pt、RE : Hg-HgO電極を用いた三極式にて評価を行った。試料の同定および電気化学特性の評価はXRD, SEM, CV, 充放電試験にて行った。また、ゾルゲル法により作成したLDH膜の形状をAFM (JSPM-5200TM)を用いて行った。XAFS測定はあいちシンクロトロン光センターBL11S2において行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
仕込み組成比Ni : V = 4 : 1, 結晶成長時間18 hで合成した試料の充放電曲線をFig. 1に示す。充放電試験において、β-Ni(OH)2の放電容量は最大で142.8 mAh/gであったが、Ni4-V-LDHは最大で249.0 mAh/gを示した。これは、Ni(2価) ⇋ Ni(3.5価)の酸化還元に由来する放電容量であると考えられる。一方で、充放電に伴う構造変化を調査したところ、30サイクル後もLDHの構造を維持していたことから、LDHは強アルカリ下でも安定した構造を有し、大きい放電容量を有するβ-Ni(OH)2に代わる正極材料として期待できる。Fig. 2にβ-Ni(OH)2の充放電中のXRDパターンを示す。10サイクル後の充電後には、1電子酸化体のβ-NiOOHの001ピークと1.5電子酸化体のγ-NiOOHの回折が観測されたが、放電後には回折は見られなくなり、アモルファスとなった。一方、Ni-V LDH (Fig. 2)では、充電により層間の回折が高角側にシフトし、放電によりほぼ元の位置に戻った。30サイクル後も回折位置、強度に大きな変化が見られないことから高い可逆性で反応が起こっていることが確認出来た。β-Ni(OH)2とNi-V LDHの充放電過程のEXAFSスペクトルを測定したところ、β-Ni(OH)2では充電により第二配位圏のNiイオン位置が大きく縮小し、放電後も初期の構造は回復せず、不可逆な構造変化が起こっていることが確認出来る。一方、Ni-V LDHは充電により隣接するOH–イオン、第二配位圏の金属イオン(Ni2+またはV3+)の距離がいずれも縮み、格子全体が縮小しており、また、放電後はほぼ元の位置に戻っている。この構造の可逆性が深い充放電におけるサイクル安定性に寄与していると思われる。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献
[1] Hai-Tao Xu, et al., ACS Appl. Mater., (2015) 20979-20986
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) N. Sonoyama, K. Takagi,S.Yoshida,T. Ota, P. K. Dedetemo; Y. Ogasawara, Applied Clay Science (2020), 186, 105440.
(2) A. Koide,M. Eguchi, N. Komiya,J. Kogo, N. Sonoyama,K. Niki, Radiation Physics and Chemistry (2020), 175, 108154.
(3) N. Sonoyama, S. Yoshida, T. Inaba, A. Karasawa, The 4th Asian Clay Conference, 2020.06.08.
(4) N. Sonoyama, T. Ota , H. Inagaki, Patrick K. Dedetemo The 4th Asian Clay Conference, 2020.06.08.
(5) 園山範之、吉田怜史、唐沢 明, 第61回電池討論会, 2020年11月18日.
(6) Patrick D. Kimilita, Q. Wen, N. Sonoyama, 第61回電池討論会, 2020年11月18日.
(7) 園山範之、緒方康平、山口弦希, 第46回固体イオニクス討論会, 2020年12月8日.