利用報告書
課題番号 :S-20-NI-0011
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :嵩高い置換基を配位子に導入したバナジウム窒素錯体の合成
Program Title (English) :Synthesis and Characterization of a Vanadium-dinitrogen complex with Bulky Substituents
利用者名(日本語) :梶田裕二1)
Username (English) :Y. Kajita1)
所属名(日本語) :1) 愛知工業大学工学部応用化学科
Affiliation (English) :1) Department of Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Aichi Institute of Technology
1.概要(Summary )
常温常圧での窒素固定法の研究開発が現在盛んに行われている。申請者所属の研究グループでは、これまでにバナジウム(III)を用いた二核窒素錯体を開発し、それを用いた窒素固定を報告している。しかし、反応機構についてはまだ未解明である。そこで、2020年度は置換基の嵩高さを系統的に変えることで、窒素分子の配位の仕方について結晶構造から検討した。
2.実験(Experimental)
Tris(s-aminoethyl)amineにシクロヘキシルアルデヒド、またはジシクロヘキシルケトンをそれぞれ反応させ、対応する配位子を得た(H3LCy, H3LDicy)。得られた配位子を用いて、当研究室で確立した方法によりバナジウム(III)錯体を合成した(錯体1および2)。これらの錯体を再結晶することによって、対応する単結晶をそれぞれ得た。得られた単結晶については、単結晶X線結晶構造解析装置(Rigaku Mercury diffractometer AFC-8R, Rigaku R-AXIS RAPID diffractometer)を用いて構造を決定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
錯体1および2の結晶構造を図1および2にそれぞれ示した。錯体1の構造は、これまで当研究室にて報告している構造と類似しており、架橋配位した窒素分子を1つ有していた。この錯体のN-N結合距離は1.216 Åであり、フリーの窒素分子(1.10 Å)と比べて活性化されていた。また、バナジウム周りの構造は歪みの小さい三方両錐構造だった。錯体2の構造は、これまでのものとは異なり、配位した窒素分子を持たず、バナジウム周りの構造は三角錐構造だった。錯体2では、一つのシクロヘキサン環がバナジウムイオンの軸位上に配置され、他の配位子の配位を、シクロヘキサン環の立体障害が妨げていた。錯体1と2を用いてプロトン化反応を行ったところ、金属1つあたりそれぞれ30 %, 60 %の収率でアンモニアを得ることができ、錯体2の方が収率が高かった。これは錯体2に窒素が配位した構造が不安定のため、生成したアンモニアが速やかに脱離で切るためであると考えた。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は科学技術振興機構基盤研究C(20K05545)のサポートを受けました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Kokubo, Y. Wasada-Tsutsui, S. Yomura, S. Yanagisawa, M. Kubo, S. Kugimiya, Y. Kajita, T. Ozawa, H. Masuda “Syntheses, Charactertizations, and Crystal Structures of Dinitrogen-Divanadium Complexes Bearing Triamidoamine Ligands” Eur. J. Inorg. Chem. pp.1456-1464 (2020).
(2) 小久保佳亮・梶田裕二 錯体化学会第70回討論会(令和2年9月29日)
(3) 小久保佳亮・梶田裕二 日本化学会第101春季年会(令和3年3月20日)
6.関連特許(Patent)
なし