利用報告書
課題番号 :S-16-MS-2019
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :強的軌道秩序を示すFeV2O4のXMCD
Program Title (English) :XMCD study of ferro orbital ordered system: FeV2O4
利用者名(日本語) :岡林潤
Username (English) :Jun Okabayashi
所属名(日本語) :東京大学大学院理学系研究科
Affiliation (English) :The University of Tokyo
1.概要(Summary )
スピネル型V酸化物(A2+V3+2O4)は、V3+イオン(3d2)の八面体結晶場中でのt2g軌道の自由度があるため、軌道秩序状態を形成することが知られている。3d準位のスピン軌道相互作用により、軌道秩序が強的(複素軌道)、反強的(実軌道)状態を取りうる。AサイトがMn2+(3d5)の場合は、結晶場中にてMnの軌道磁気モーメントが凍結する。このとき、V 3d軌道のt2g軌道におけるyz, zx実軌道が交互に並び、軌道磁気モーメントが凍結する反強的な軌道秩序を示す。一方、AサイトがFe2+(3d6)の場合は、Fe2+のJahn-Teller効果により、V 3d軌道が縮退し、dyz + idzx複素軌道による強的な軌道秩序状態を形成し、有限の軌道磁気モーメントが期待される。これらの電子状態を調べるには、Vサイトの軌道磁気モーメントの有無を調べることが必要となり、元素別軌道磁気モーメントを調べる内殻磁気円二色性(XMCD)が重要となる。本研究では、複素軌道秩序が期待されているFeV2O4の試料に対して、軌道秩序状態の強的・反強的軌道秩序と軌道磁気モーメントの関係についてXMCDを用いて詳細に調べることを目的としている。
2.実験(Experimental)
単結晶FeV2O4について、温度5 K, ±5 Tの磁場環境にてFeおよびV L吸収端のXMCD測定を分子科学研究所UVSOR BL-4Bにて行う。本研究を行うには、エネルギー可変な放射光と、低温かつ強磁場の環境にてXMCD測定を行える分子研UVSORの実験装置が必要となる。類似物質のMnV2O4のXMCD測定と同条件での計測を行うことによりスペクトルの比較が可能となる。(J. Okabayashi et al., J. Phys. Soc. Jpn, 84, 104703 (2015).)
3.結果と考察(Results and Discussion)
Fe, V L吸収端でのXAS, XMCDを測定した。XMCDの積分値が有限となることから、V3+に軌道磁気モーメントがあることが判った。XASの積分と磁気光学総和則を用いて軌道磁気モーメントを定量的に算出すると、0.1 B/バナジウムイオン程度となり、dyz + idzx複素軌道による強的な軌道秩序状態を形成することを示唆する結果となった。Fe2+もXMCDを示し、有限の軌道磁気モーメントがあることが判った。
V3+(3d2)状態では、3d電子状態は結晶場によりt2g状態が歪により分裂する。xy軌道には1つの電子が入り、もう一つの電子がyz、zx軌道に入る際に軌道占有の自由度を有する。今回、有限の軌道磁気モーメントが残っている理由について、以下の3つが考えられる。i) 強的軌道秩序状態の形成、ii) ドメイン構造の形成、iii) 歪による強的、反強的軌道秩序の共存。これらのことから、FeV2O4とMnV2O4を比較することから、Vの軌道秩序について、XMCDを用いたアプローチが可能となった。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は、宮坂茂樹 准教授(阪大理)らとの共同研究である。UVSORの利用においては、分子研の横山利彦教授、高木康多助教、上村洋平助教に多大なご協力をいただいたことに感謝する。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし







