利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1041, S-16-MS-1041b
利用形態 :機器センター施設利用(ナノテクノロジープラットフォーム)
利用課題名(日本語) :新たなトポロジカル物質の探索とその電子状態および結晶構造の評価
Program Title (English) :Evaluation of the electronic and crystal structures in new class of topological materials
利用者名(日本語) :宮崎秀俊1), 酒井優2)
Username (English) :H. Miyazaki1), Y. Sakai2)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学大学院工学研究科, 2) 名古屋工業大学工学部
Affiliation (English) :1) Department of Physical Science and Engineering, Nagoya Institute of Technology, 2) Department of Environmental and Materials Engineering, Nagoya Institute of Technology
1.概要(Summary )
近年、薄膜表面における空間対称性の破れに伴うディラックコーンと呼ばれる特殊な電子状態により出現する「量子異常ホール効果」がエネルギー損失を伴わない電力輸送を実現する可能性が報告された。しかしながら、この物理現象は極低温下でのみ発現が確認されており、発現温度の高温度化が必要不可欠である。近年、EuO/SmO人工超格子多層膜において、その強いスピン軌道相互作用および大きな磁気モーメントにより希薄磁性薄膜よりも高い温度で量子ホール効果が発現することが理論的に予言されたものの、EuOやSmOは熱力学的に不安定な物質であるために通常の結晶合成法では作製が困難であることが知られている。
そこで、本研究では、様々な成膜条件下において、Sm酸化物薄膜を成長させ、結晶構造および電子状態を詳細に評価することにより、熱力学に不安定なSmO薄膜が得られているかを詳細に評価する。そのために、分子科学研究所に設置されている可視紫外分光光度計によるバンドギャップ評価およびX線回折装置による結晶構造解析を行った。
2.実験(Experimental)
Sm酸化物薄膜は、分子線エピタキシー法を用いて蒸着を行った。純度99.9 %の高純度Sm金属をルツボに入れ、K-cellを加熱し蒸着するとともに、高精度に流量を制御した高純度酸素ガスを様々な酸素分圧で製膜装置内に流入させることによりSm酸化物薄膜の成膜を行った。蒸着中の基板温度は673 Kに設定した。
可視紫外分光測定は、分子科学研究所に設置されている可視紫外分光光度計 Hitachi U-3500を用いて200 nm ~ 3200 nmの波長範囲で室温において測定を行った。X線回折測定はRigaku Ultima-IIIを用いて測定を行った。ただし、可視紫外分光測定においては、透過法では基板を紫外光が通過せず、測定ができなかったため、本報告ではX線回折測定の結果のみ報告する。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1(a)に特定の基板、酸素分圧、基板温度で製膜したSmOのX線回折測定の結果を示す。基板の(100)回折ピークの他にはSmO(111)、表面酸化膜に由来すると考えられるSm2O3の回折ピークが観測された。このことからSmOがYSZ(100)基板上に成長していることが示唆される。
しかしながら、ランタノイド系は2価および3価の酸化物を形成することが多く、今回の作製に成功したSmO酸化物のSmの価数が2価であるか、もしくは3価であるか、本研究においては非常に重要である。そこで、図1(b)に図1(a)から得られたSmO(100)回折ピークから見積もられた格子定数を他の2価および3価のランタノイド系酸化物の格子定数と比較した結果を示す。本研究で作製に成功したSmOの格子定数は2価のランタノイド系酸化物が取る格子定数と一致している。以上の結果から、今回のSmO酸化物は(111)方向に成長した[Sm2+ 4f] [O2- 2p]の化学状態を有する物質であると結論した。
今後は、電子状態の直接観測を行うことにより、2価のSmが形成するトポロジカル状態の直接観測を試み、その状態を制御する方法の探索を行って行く予定である。
図1 YSZ基板上に製膜したSmO薄膜のX線回折測定 (a)および回折ピーク位置から算出されたSmOの格子定数と関連物質の格子定数との比較。
4.その他・特記事項(Others)
本実験の遂行に辺り、分子科学研究所・機器センター・藤原基靖様および上田正様には実験遂行までの準備、装置の使用法、解析に至るまで大変、多くの助言を頂きました。深く感謝致します。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。







