利用報告書

新規パラジウム二核錯体によるベイポクロミズム特性の発現
矢野なつみ, 片岡祐介(島根大学総合理工学部)

課題番号 :S-20-MS-1068
利用形態 :機器センター施設利用
利用課題名(日本語) :新規パラジウム二核錯体によるベイポクロミズム特性の発現
Program Title (English) :Vapochromic behavior of a palladium complex with benzamidine ligand
利用者名(日本語) :矢野なつみ, 片岡祐介
Username (English) :Natsumi Yano, Yusuke Kataoka
所属名(日本語) :島根大学総合理工学部
Affiliation (English) :Interdisciplinary Faculty of Science and Engineering, Shimane University

1.概要(Summary)
近年, 有機溶媒蒸気に応答して物質の色が変化するベイポクロミック現象を引き起こす金属錯体は, 有害な揮発性有機化合物を検知する化学センサー材料として注目を集めている。これまでに, ベイポクロミズム現象を示す金属錯体の多くは, 3d遷移金属や, 5d遷移金属が主であり, 4d遷移金属によるベイポクロミック現象の報告例は数少ない状況である。この背景に対し我々は, 4d遷移金属であるPd(II)錯体によるベイポクロミズム現象の発現を目的として, Pd(II)イオンに対して2-phenylpyridine (ppy), acetate (OAc), benzamidine (Hbam)を導入したPd(II)錯体[Pd(Hbam)(OAc)(ppy)]2を合成した。更には, 複数の有機溶媒から再結晶を行い, 結晶化溶媒の異なる単結晶の構造解析を実施した。
2.実験(Experimental)
Pd(II)錯体の合成と結晶化は, 申請者の所属機関にて実施した。測定に使用するサンプルは, 結晶化溶媒に浸した状態で分子科学研究所に持参した。単結晶X線構造解析測定は, 単結晶X線構造解析装置Rigaku MERCURY CCD-1, CCD-2, HyPix-AFCを使用した。測定温度は, 150 Kに設定した。単結晶は, クライオループ及び流動パラフィンを使用してゴニオメーターヘッドに固定した。測定で得られた反射データは, Crystal Clear, CrysAlisで処理し, Crystal Structure等のソフトウェアを使用して構造解析及び精密化を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
合成した[Pd(Hbam)(OAc)(ppy)]2は, ジクロロメタン溶液から再結晶をした場合は黄色結晶となったが, クロロホルム溶液から再結晶を行うとオレンジ色結晶となった。各状態の単結晶X線構造解析の結果, どちらのPd(II)錯体も図1の様に, 単核構造が集積する事によって擬二核構造を形成していた。更に, ジクロロメタンから再結晶を行った黄色結晶は, パッキング構造内に溶媒分子が含まれていなかったが(図1(a)), クロロホルムから再結晶を行ったオレンジ色結晶は, パッキング構造内にクロロホルム分子が含まれていた(図1(b))。また, 黄色結晶状態は3.139 Åであった事に対し, オレンジ色結晶状態では3.077 Åと僅かに短くなっていた。この結果から, 結晶化溶媒でパッキング構造が異なる事によってPd…Pd間距離が変化した事が, 固体状態における色の違いが発現したと示唆された。また, 黄色状態の粉末に対してクロロホルム溶液の蒸気を暴露するとオレンジ色粉末となり, オレンジ色粉末を乾燥させると黄色粉末となった。以上の結果から, 本研究で開発したPd(II)錯体 [Pd(Hbam)(OAc)(ppy)]2は, クロロホルム蒸気に応答して, 可逆的なベイポクロミズム現象を示す事が明らかになった。
4.その他・特記事項(Others)
なし。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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