利用報告書
課題番号 :S-17-TU-0021
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :新規典型元素化合物の精密合成と物性解明
Program title (English) :Consise Synthesis and Properties of New Main Group Element Compounds
利用者名(日本語) :石田真太郎, 陳村拓也, 岩本武明
Username (English) :Shintaro Ishida, Takuya Nomura, Takeaki Iwamoto
所属名(日本語) :東北大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Science, Tohoku University
検索キーワード :ポルフィリン,NMR,29Si核,構造解析
1.概要(Summary)
固体中の構造と溶液中の構造は必ずしも一致するとは限らない。NMR分光法は分子の構造を決定するための強力な手法であり、特に溶液NMRと固体NMRとの比較を行うことで、それぞれの状態間の構造について決定的な情報が得られる。
今回、典型元素化合物としてケイ素を中心に持つポルフィリンTPPSiH2(図1)を取り上げた。我々が最近合成に成功したTPPSiH2は六配位のケイ素水素化物であり、極性を持つ多重結合に対して高い反応性を持つことが判明した。その高い反応性の原因が溶液中におけるSi–H結合、あるいはSi–N結合の解離に由来する可能性がある。そこでTPPSiH2の固体CP/MAS 29Si NMR測定を行い、溶液中と固体の構造を比較することで情報が得られるのではないかと考えた。
図1. TPPSiH2の構造式と単結晶X線結晶構造解析によって得られた構造.
2.実験(Experimental)
サンプルは式1の様に合成し、十分な純度であることを確認した上で固体NMR測定に用いた。測定は室温、約20 mgのTPPSiH2を用いて行った。装置は超高磁場NMRを用いる事による感度の向上を期待し、800 MHz NMR (JNM-ECA 800)を使用した。
式1. TPPSiH2の合成と精製.
3.結果と考察(Results and discussion)
TPPSiH2のサンプルから得られたCP/MAS 29Si NMRスペクトルを図2に示した。明確なシグナルが–221.2 ppmに観測された。このシグナルは六配位の中心ケイ素に対応するものであり、他のシグナルは観測されなかった。そしてこの化学シフトは、重クロロホルム中で測定したTPPSiH2の化学シフト(–223.7 ppm)と一致した。この結果はTPPSiH2の溶液中と固体の構造が一致することを示している。従って、TPPSiH2の高い反応性は、この分子の六配位ケイ素水素化物構造自体に由来することが判明した。現在、TPPSiH2の持つ高い反応性が、分子構造のどの部位に由来するかを調査している。
図2. TPPSiH2のCP/MAS 29Si NMRスペクトル
4.その他・特記事項(Others)
本研究のNMR測定に関し、東北大学大学院理学研究科付属巨大分子解析センターの吉田慎一朗氏に協力頂いた。ここに感謝申しあげます。
5.論文・学会発表(Publications)
なし
6.関連特許(Patents)
なし