利用報告書

新規有機合成法の開発
山崎 祥子
奈良教育大学

課題番号 :S-20-NR-0001
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :新規有機合成法の開発
Program Title (English) :The Development of New Synthetic Methods
利用者名(日本語) :山崎 祥子
Username (English) :S. Yamazaki
所属名(日本語) :奈良教育大学
Affiliation (English) :Nara University of Education

1.概要(Summary )
1,1-ジフェニルエテン部分の反応性の特徴を利用した、連続的Knoevenagel縮合/環化反応によるインデン誘導体の合成を行った。2-(1-フェニルビニル)ベンズアルデヒドとマロン酸エステルとのKnoevenagel縮合によるベンジリデンマロン酸エステルの生成、続いてアルケンMichael付加による環化でインデンの生成、さらに脱水素が容易に起こりベンゾフルベン誘導体が得られた。生成物はピペリジン-酢酸、四塩化チタン-ピリジン/トリエチルアミンなどの反応条件に依存して、選択的に得られた。

2.実験(Experimental)
未知化合物であるすべての生成物の構造決定のために1H, 13C-NMR, 赤外吸収, 質量分析スペクトルおよび元素分析を行った。質量分析スペクトルは、JEOL JMS-700装置を用いた。

3.結果と考察(Results and Discussion)
インデンやベンゾフルベンは生理活性物質や機能性物質に多く見られる有用な骨格である。基質の1,1-ジフェニルエテン部分の反応性の特徴を利用した、連続的Knoevenagel縮合/環化反応によるインデン誘導体の合成を行った。
2-(1-フェニルビニル)ベンズアルデヒド1a1)とマロン酸ジメチルとの種々のKnoevenagel縮合の反応条件下、ベンジリデンマロン酸エステル2a、続いてアルケンMichael付加による環化によるインデン3a、さらに脱水素が起こったベンゾフルベン誘導体4aが得られた(Scheme 1, Table 1)。生成物はピペリジン-酢酸、四塩化チタン-ピリジン/トリエチルアミンなどの反応条件に依存して、選択的に得られた。1b-1gを用いて、基質一般性についても検討したところ、Cl,Me,F置換誘導体においても同様に生成物3,4が得られた。4はいずれも420 nm付近に吸収のある橙色の結晶である。

Scheme 1
Table 1. Reaction of 1 and dimethyl malonate
entry 1 R1 R2 R3 reagents temp. time product yield (%)
1 1a H H H A. AcOH (1 equiv), piperidine (1 equiv), benzene 80 °C 1.5 h 2a 75
2 1a H H H A 80 °C 17 h 2a 56
3 1a H H H B. TiCl4 (1 equiv), pyridine (4 equiv), CH2Cl2 r.t. 8 h 3a 79
4 1a H H H C. TiCl4 (2 equiv),
Et3N (8 equiv), CH2Cl2 r.t. 17 h 4a 40
5 1b Me H H B r.t. 17 h 3b 46
6 1c Cl H H B r.t. 17 h 3c 54
7 1d H Me H B r.t. 17 h 3d 55
8 1e H Cl H B r.t. 17 h 3e 57
9 1f H H Cl B r.t. 17 h 3f 66
10 1g H F H B r.t. 17 h a
11 1b Me H H C r.t. 17 h 4b 45
12 1c Cl H H C r.t. 17 h 4c 57
13 1d H Me H C r.t. 17 h 4d 61
14 1e H Cl H C r.t. 17 h 4e 46
15 1f H H Cl C r.t. 17 h 4f 52
16 1g H F H C r.t. 17 h 4g 53
a A mixture of possible 2g and 3g.
中間生成物2aまたは3aからの段階的な変換をTable 2の条件で行った。適当な条件で2a→3a→4aと変換されることがわかった。
Table 2. Reactions of products 2a/3a
entry substrate reagents temp. time product yield (%)
1 2a Sc(OTf)3
(0.2 equiv)
CH2Cl2 40 °C 17 h 3a 74
2 3a TiCl4 (1 equiv), Et3N (4 equiv),
CH2Cl2 r.t. 17 h 4a 71
3 3a FeCl3 (1 equiv), Et3N (4 equiv),
CH2Cl2 r.t. 17 h 4a 93
4 3a DDQ (1 equiv), benzene r,t. 17 h 4a 98

DFTによるモデル計算を用いて反応機構の考察を行った(Scheme 2)。環化はPh基により促進されており、2-ビニルベンズアルデヒドはBの反応条件で縮合体5までしか進行しないことと一致している。

Scheme 2
さらに活性メチレン化合物として、マロン酸ジエチルやメルドラム酸、マロノニトリルについても1aとKnoevenagel縮合の反応条件を検討した。マロン酸ジエチルはマロン酸ジメチルと同様に反応が進行したが、メルドラム酸、マロノニトリルではTiCl4-Et3N/pyridineとの反応では分解したり、収率が低かった。基質により、反応の最適化条件は異なるが、段階的又は連続的に環化生成物が得られた(Scheme 3)。

Scheme 3

4.その他・特記事項(Others)
参考文献:
(1) Q. Zhou, S. Li, Y. Zhang, J. Wang, Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 16013.
謝辞: 共同研究者の森本積先生、質量分析をして頂きました西川嘉子様、山垣美恵子様に感謝致します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Yoshikawa, N.; Yamazaki, S.; Kimori, K.; Kakimoto, Y.; Mito, K.; Eguchi, S.; Yokoyama, R. Kanehisa, N.; Tohnai, N.; Nakata, E.; Takashima, H. Trends in Photochemistry & Photobiology, 2020, 19, 1–16.
(2) Yamazaki, S.; Wang, Z.; Iwata, K.; Katayama, K.; Sugiura, H.; Mikata, Y.; Morimoto, T.; Ogawa, A. Synthesis 2021, 53, 731-753.
(3) Yamazaki, S. 1,3-Dioxins, Oxathiins, Dithiins, and Their Benzo Derivatives,in Comprehensive Heterocyclic Chemistry IV, 2020 Elsevier Inc 10.1016/B978-0-12-409547-2.14933-9.
(4) Yamabe, S.; Tsuchida, N.; Yamazaki, S. ChemistrySelect 2020, 5, 9184-9194.
(5) 片山 耕太郎,山崎 祥子、王 智超、小川 昭弥、森本 積,日本化学会第101春季年会,2021年3月19日
(6) 王 智超、山崎 祥子、小川 昭弥、森本 積,日本化学会第101春季年会,2021年3月19日

6.関連特許(Patent)
なし。

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