利用報告書

有効磁気モーメント法によるフリーラジカル数分析
松本信洋1)
1) 産業技術総合研究所

課題番号 :S-18-MS-1009
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :有効磁気モーメント法によるフリーラジカル数分析
Program Title (English) :Quantitative analysis of free radicals by effective magnetic moment method
利用者名(日本語) :松本信洋1),
Username (English) :N. Matsumoto1)
所属名(日本語) :1) 産業技術総合研究所
Affiliation (English) :1) National Institute of Advanced Industrial Science and Technology

1.概要(Summary )
分析化学分野において,アボガトロ定数以上の原子・分子が集合した試料の純度または濃度を物理量の測定値と物理定数等から直接得る事ができる分析方法(一次標準直接法)は,重量分析法、電量分析法、凝固点降下法の三種類のみである。それに対して,本研究では、不対電子がもつ有効磁気モーメントの性質を利用した新規定量分析法“有効磁気モーメント法“を、将来の一次標準直接法となる事を長期目標として提案・開発している。安定なフリーラジカルをもつ有機化合物粉末のフリーラジカル純度を、キュリー・ワイスの法則と磁気モーメントの加算則、ESR基本方程式に基づいて正確に定量する分析法である。ESR測定、吸光分析法等においてラジカル量の標準試料として広く用いられている “純DPPH”粉末のラジカル純度を有効磁気モーメント法により、精確に絶対定量することを試みたので、報告する。
2.実験(Experimental)
使用した装置:
・電子スピン共鳴装置(E680,W-band)
・電子スピン共鳴装置(E500)[Qバンド、Xバンド]
・SQUID (MPMS-7)
3.結果と考察(Results and Discussion)
表1は”純DPPH“として市販されている試薬の主な分析結果を簡潔にまとめたものである。単位質量あたりのフリーラジカル数はSQUID測定による一定磁場下の磁気モーメント温度依存性とXバンドESR測定によるg値から求めたものであり、B社とA社、B社とC社間では約20%の差がみられた。XバンドESRスペクトルではいずれの試薬も1本の微分ピークとして検出されたのに対して、高分解能なQバンド・WバンドESRスペクトルでは、A社・C社ではg値の異方性が確認された。その他、元素分析計によるCHN分析、溶液NMR測定, KBr法によるFT-IR測定を実施した。A社とC社ではDPPH結晶構造においてDPPH分子間にベンゼン分子が数mol%存在しており、B社のみが真にDPPHの純物質である事が明らかになった。市販のDPPHを標準試料として用いている多くの研究者・技術者の分析値の信頼性向上に資することが期待される。
表1「純DPPH」粉末の主な分析結果
試薬 単位質量あたりの
フリーラジカル数,
kg-1 主成分 フリーラジ
カル純度
102kg kg-1
A社 (1.23±0.04) ×1024 ベンゼンを数mol%含むDPPH –
B社 (1.526±0.056)×1024 DPPH 99.8±3.6
C社 (1.28±0.04) ×1024 ベンゼンを数mol%含むDPPH –

4.その他・特記事項(Others)
[謝辞]共同研究者である産総研・伊藤信靖主任研究員、および、分子研機器センター・藤原基靖主任、伊木志成子技術補佐員のサポートを受けました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1)N.Matsumoto and N.Itoh, Analytical Sciences,Vol. 34(2018)pp.965-971.
(2)N.Matsumoto,C.L.Dennis and R.D.Shull,IEEE Transactions on Magnetics,(2019) p.9400305(5 pages)
(3)松本信洋,伊藤信靖,第78回分析化学討論会,平成30年5月26日.
(4)N.Matsumoto,N.Itoh,ICM2018,平成30年7月20日
6.関連特許(Patent)
なし

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.