利用報告書

有機ディラック電子系を用いたアクシオン電磁応答開拓
田嶋尚也(東邦大学理学部)

課題番号 :S-20-MS-0008
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :有機ディラック電子系を用いたアクシオン電磁応答開拓
Program Title (English) :quantum anomaly detection in organic Dirac electron systems
利用者名(日本語) :田嶋尚也
Username (English) :Naoya Tajima
所属名(日本語) :東邦大学理学部
Affiliation (English) :Toho Univ.

1.概要(Summary )
近年、固体中の電子がとりうる特殊なエネルギー構造により、質量ゼロのディラック電子、さらには粒子と反粒子が同一という特異な性質をもつ中性のマヨラナ粒子が実現するなど、固体中で宇宙や素粒子物理学が繰り広げられている。そのような観点から異分野間の共同研究が行われるなど、最近の固体中の電子物性は広い領域の研究者から注目を集めている。
本研究課題は、有機ディラック電子系を題材に宇宙物理における暗黒物質の正体の候補として有力視されている素粒子アクシオン(と同じ性質の粒子)を検出し、新奇の電磁応答現象を開拓することを目的とする。
固体中にアクシオンを生成するにはカイラル対称性が破れた系を実現することが重要となる。本研究課題期間では、カイラル対称性が破れたディラック電子系を探索した。その結果、有機ディラック電子系α-(BEDT-TTF)2I3 (1.5 GPa以上)とα-(BETS)2I3 (0.7 GPa以上)にカイラル対称性が破れた系である可能性を見出した。

2.実験(Experimental)
電気分解法により厚さ100~200 nm程度の分子性導体: α-(BEDTT-TTF)2I3の薄片単結晶を合成した。得られた単結晶を正または負に帯電した基板に張り付けることで、α-(BEDTT-TTF)2I3及びα-(BETS)2I3へキャリアを注入した。低温・磁場下測定は東邦大学で行い、デバイス構造や基板電極の選択などに関して、測定結果を基に最適化を行った。
以下が具体的な研究計画である。
デバイス作製: 100 nm程の厚みの試料をプラスチック基板に固定して、電界効果トランジスタを作製する。
測定:低温・磁場下において量子輸送現象を観測した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
最近、森成(京大)がスピン軌道結合と電子相関効果の協力・協奏により有機ディラック電子系のカイラル対称性が破れることがあることを理論的に指摘した。図1にカイラル対称性が破れた有機ディラック電子系のバンド分散を示す。質量ゼロを保持し、2つのディラック点にエネルギー差が生じる特徴的な分散である。

α-(BEDTT-TTF)2I3及びα-(BETS)2I3へキャリアを注入し、低温で量子輸送現象を詳細に調べた。その結果、図1に示したような、2つのディラック点に僅かに(約4 K)だがエネルギー差があることを示唆する結果を得た。
このようなカイラル対称性が破れた系では、電場Eと磁場Bのある特定の方向(E∙B≠0)に対して散逸を伴わない輸送現象をもたらすことが理論的に提案されている。その方向に対して、磁場がカイラル電流を生成するのである。そこで、次のステップとして、この特徴ある輸送現象(カイラル電流)を検出することを計画した。
低温・静磁場下で1次元性が強い伝導特性を示す磁場の方向を特定し、さらに、その特定の方向に対して、電流および電場印加無しでも、静磁場下で発生する巨大な起電力(図2)の検出は、磁場が生成するカイラル電流を検出したことを強く示唆される。
 

4.その他・特記事項(Others)
「なし。」

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Unozawa, Y. Kawasugi, M. Suda, H. M. Yamamoto, R. Kato, Y. Nishio, K. Kajita, T. Morinari, and N. Tajima, “Quantum Phase Transition in Organic Massless Dirac Fermion System α-(BEDT-TTF)2I3 under pressure”, J. Phys. Soc. Jpn., 89, 123702-1-5 (2020).
(2) 鵜野澤佳成, 川椙義高, 須田理行, 山本浩史, 加藤礼三,西尾豊, 梶田晃示, 田嶋尚也
“有機ディラック電子系における量子輸送現象の圧力効果”, 2020年秋季次大会(オンライン開催): 2020年9月9日

6.関連特許(Patent)
「なし。」

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