利用報告書
課題番号 :S-16-NU-0048
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :溶解性改善を目的とした難溶性薬物の固体分散体化
Program Title (English) :Improvement of poorly water soluble drugs with solid dispersing system
利用者名(日本語) :小川 法子
Username (English) :N. Ogawa
所属名(日本語) :愛知学院大学 薬学部 製剤学講座
Affiliation (English) :Department of Pharmaceutical Engineering, School of Pharmacy,
Aichi Gakuin University
1.概要(Summary )
薬物が体内に吸収されるためには、薬物分子が消化管内で水に溶解し、消化管を構成する細胞の細胞膜あるいは細胞と細胞の間の極めて狭い間隙を透過する必要がある。近年、水への溶解性の低い薬物(難溶性薬物)が多く開発されており、こうした薬物の溶解性改善は医薬品開発の上で大きな課題となっている。難溶性薬物は、非晶質体にすることで、その溶解性が向上することが知られており、難溶性薬物の非晶質体化の手法の一つに固体分散体化がある。固体分散体は、薬物を固体状態の不活性な担体中に微粒子または分子状態で分散させたもので、難溶性薬物の可溶化に有用である。そこで、難溶性薬物の固体分散体を調製し、その物理化学的性質や溶解性を検討している。本研究では、難溶性のモデル薬物と固体分散体の担体間の相互作用について、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を用いて評価した。
2.実験(Experimental)
固体分散体の担体として、環状糖類であるシクロデキストリン(CD)の誘導体の一つであるヒトロキシプロピル--CD (HP--CD)を用い、難溶性のモデル化合物として、cytosine nucleoside誘導体である1-(2-C-cyano-2-deoxy--D-arabino-(pentofuranosyl)cytosine (CNDAC)の誘導体(sapacitabine)を用いた。sapacitabineとHP-β-CD間の相互作用について、NMR測定により評価した。薬物単体、HP--CD単体ならびに薬物とHP--CDの混合試料について、重水または重水素化メタノールに溶解し、測定試料とした。測定は、AVANCE IIIHD 500MHz (Bruker製)を用い、1H、13C NMR測定ならびに二次元NMRである1H-1H COSY、ROESY測定を行った。また、解析にはNMRソフトウエアであるTopSpin (Bruker)を用いた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
薬物単体およびHP--CD単体について、1H、13C NMR測定、1H-1H COSYにより、それぞれの帰属を検討した。また、薬物とHP--CDの混合試料については、1H、13C NMR測定に加え、ROESY測定を行うことで、薬物とHP--CD間の相互作用を検討した。
ROESY測定の結果、混合試料では、わずかではあるが薬物とHP--CDの間に相関ピークが認められたことから、両者に相互作用があることが推察された。しかし、薬物由来のピークが著しく小さいことから、精密に帰属を行うことは困難であった。本薬物の水への溶解性が著しく低いことから、本研究では、薬物とHP--CD混合試料を調製するにあたり、薬物に対するHP--CDの割合を著しく大きくしたことから、薬物由来のピークの判別が難しくなったことが考えられた。したがって、今後、混合試料中の薬物とHP--CDの割合を再検討し、再度、NMR測定による相互作用の検討を行う予定である。
4.その他・特記事項(Others)
謝辞:本利用にあたり、名古屋大学ナノテクノロジープラットフォーム 分子・物質合成プラットフォーム 坂口佳充特任教授に支援を頂きました。また、本課題の実施にあたり、測定方法についてご指導、ご協力を頂きました近藤一元先生、鳥居実恵先生に厚く御礼申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし