利用報告書

無水有機プロトン伝導体イミダゾリウムーコハク酸塩粉末における分子配向無秩序化を伴う構造転移及び相挙動の研究
出倉駿(東京大学物性研究所)

課題番号 :S-20-MS-0017
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :無水有機プロトン伝導体イミダゾリウムーコハク酸塩粉末における分子配向無秩序化を伴う構造転移及び相挙動の研究
Program Title (English) :Study on Structural Transition Accompanying Molecular Orientational Disordering and Phase Behavior of Anhydrous Organic Proton Conductor Imidazolium Hydrogen Succinate Powder
利用者名(日本語) :出倉駿
Username (English) :S. Dekura
所属名(日本語) :東京大学物性研究所
Affiliation (English) :ISSP, The University of Tokyo

1.概要(Summary)
 次世代型燃料電池の固体電解質候補物質として注目されている「無水プロトン伝導体」の一種であるイミダゾリウムーコハク酸塩(Im-Suc)単結晶は、約80 °Cでイミダゾリウム分子の配向無秩序化を伴う構造転移を示し、これによりプロトン伝導度が大きく促進されるが、粉末状態では構造転移を示さない。そこで粉末のIm-Sucに対し温度可変粉末X線回折(PXRD)測定を行うことで構造の観点から相挙動を調査した。
 室温におけるIm-Suc粉末は概ね単結晶の室温構造と同じ構造を示したが、部分的に高温構造が析出してた。一方で融点まで加熱しても構造転移を示すパターンの変化は観測されず、粉末では構造転移が消失していることが示された。これは分子の配向無秩序化の抑制、すなわち試料形態による分子ダイナミクス制御の可能性を示唆しており、基礎学理的知見のみならず、全固体燃料電池への応用に向けた物質設計指針確立にもつながると考えられ、大変意義深い。

2.実験(Experimental)
使用設備:オペランド多目的X線回折装置 Panalytical社製 Empyrean(高温オーブンチャンバー Anton Paar社製 HTK 1200N: 測定可能温度 RT–1200 °C)
温度: 30–125 °C (303–398 K)
試料: Im-Suc塩粉末、白色

3.結果と考察(Results and Discussion)
 Im-Suc塩の粗結晶粉末のPXRD測定を行い、単結晶で得られた室温及び相転移後の高温構造から予想されるシミュレーションパターンと比較した結果、室温におけるIm-Suc粉末のパターンは概ね単結晶の室温構造と一致したものの、部分的に高温構造を含んでいることが明らかになった。一方、この粉末の温度を室温から融点近くの125 °Cまで変化させたところ、単結晶の構造転移温度である80 °C付近を含む全温度領域で構造転移を示すようなパターンの変化は観測されず、昇温とともに高温構造の割合が僅かに増加することが明らかになった。これは試料形態が単結晶から粉末に変化し欠陥や粒界が多数導入されたことで高温構造の析出や構造転移の抑制が引き起こされたと考えられる。すなわち構造転移に伴って生じるはずの分子配向無秩序化も抑制されたことが示唆され、試料形態による分子ダイナミクス制御やそれによるプロトン伝導度制御の可能性を示す重要な成果である。一方、より良質なデータに基づく格子定数や分子間距離の観点からの構造転移消失の考察、および高温構造の定量は今後の課題である。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究 JP20K15240)の支援により実施された。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 出倉駿 他, 日本物理学会第76回年次大会, 令和3年3月14日

6.関連特許(Patent)
なし。

©2024 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.