利用報告書

疎水化ゼラチンを用いた外科用シーラントの開発
水田 亮
筑波大学大学院 数理物質科学研究科

課題番号 : S-15-NM-0074
利用形態 : 機器利用
利用課題名(日本語) : 疎水化ゼラチンを用いた外科用シーラントの開発
Program Title (English) : Development of surgical sealant composed of hydrophobically modified gelatin
利用者名(日本語) : 水田 亮
Username (English) : Ryo Mizuta
所属名(日本語) : 筑波大学大学院 数理物質科学研究科
Affiliation (English) : Graduate School of Pure and Applied Science, University of Tsukuba

1.概要(Summary)
外科用シーラントは、生体組織間の吻合部や肺のエアーリーク等、外科手術において頻繁に使用されている。現在臨床で最も使用されているシーラントは、ヒト血液由来成分を用いたフィブリンシーラント(Fibrin)であり、使用割合は約70%を占めている。Fibrinは生体親和性に優れ、汎用性が高いが、組織に対する界面強度が低いため、十分なシーリング効果が得られていない。そのため、外科手術中の湿潤環境において生体組織・臓器に接着し、優れたシーリング効果を発揮するシーラントの開発が望まれている。
我々はこれまでに疎水化ブタ由来ゼラチンを用いた組織接着剤を開発し、湿潤組織に対して高い接合強度を有することを明らかにした1)。しかしながら、ブタ由来ゼラチンは高濃度において常温流動性が低く、使用前に加温する必要性があった。
そこで本研究では、高濃度で常温流動性の高いタラ由来ゼラチン(apGltn)を用いた。本研究では、疎水基種および導入率の異なるapGltnを合成し、これらと水溶性架橋剤2)から成るシーラントの湿潤組織に対するシーリング効果について評価した。

2.実験(Experimental)
本実験では接着メカニズムの検討のため、Biacore X(GE Healthcare)により疎水化ゼラチン(Hm-apGltn)と細胞外基質(ECM)タンパク質の相互作用を評価した3, 4)。
カルボキシメチルデキストランチップ(CM5)上へのゼラチンの固定化を行った。CM5基板上のカルボキシル基に対して、ゼラチン中アミノ基とのアミンカップリングによりapGltnを固定化した。固定化後、ECMタンパク質を用いて相互作用の測定を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
アミンカップリングによりapGltnの固定化が可能であった。フィブロネクチンや水溶性エラスチンなどのECMタンパク質を用いて相互作用の測定を行った。フィブロネクチンおよびエラスチンは所定の濃度に調製して、それぞれ添加後のレスポンスを測定した。ECMタンパク質溶液をOrg-apGltnおよびHm-apGltnを固定化させたチップ上に添加した。いずれのapGltnについても、フィブロネクチン濃度に伴うレスポンスの増加が測定された。またOrg-apGltnと比較して、Hm-apGltnではフィブロネクチンとの高い相互作用が示された。

4.その他・特記事項(Others)
【参考文献】
1) Matsuda, M. et al., J. Bioact. Compat. Polym. 2012, 27(5), 481-498.
2) Taguchi, T. et al., Biomaterials 2005, 26, 1247-1252.
3) Sandra, V. et al., Macromol. Biosci. 2009, 9, 1105-1115.
4) Nakamura, T. et al., FEMS Microbiol. Lett. 1999, 175, 267-272.

【謝辞】
本実験を遂行するにあたり、ご指導いただきました分子・物質合成プラットフォームの箕輪貴司博士、李香蘭博士に深く感謝の意を表します。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
1) Taguchi, T. et al., J. Biomed. Nanotechnol. 2016, 12, 128-134.

6.関連特許(Patent)
なし。

©2025 Molecule and Material Synthesis Platform All rights reserved.