利用報告書
課題番号 :S-16-MS-1074
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :短い水素結合を形成したスピンクロスオーバー錯体の構造と磁性
Program Title (English) :Structure, Magnetic Property of Spin Crossover Complexes Forming Short Hydrogen Bonds
利用者名(日本語) : 中西 匠 1)
Username (English) : Takumi Nakanishi1)
所属名(日本語) :1) 九州大学 先導物質化学研究所 佐藤研究室
Affiliation (English) :1) Institute for Materials Chemistry and Engineering, Kyushu University
1.概要(Summary )
光、温度、圧力によりスピン状態が高スピン(HS)、低スピン(LS)間で切り替わるスピンクロスオーバー(SCO)錯体は、記憶材料などへの応用の観点から盛んに研究されている。本研究では新たに、電場によってスピン状態を切り替えることが可能なSCO錯体の開発を目指している。電場応答の機構として、有機強誘電体分野にて近年注目されている、水素結合型強誘電体の電場誘起プロトン移動の機構を検討しており、外場によってプロトン移動を引き起こすことが可能なSCO錯体の開発を行ってきた。その様な化合物の候補の一つとして、プロトンが水素結合中で容易に動くことが可能であると期待される、鉄二価スピンクロスオーバー錯体[Fe(L)2](H2FPh) L = 2-acetylpyridine isonicotinoylhydrazone, H2FPh = tetrafluorophthalic acid)を開発した。この化合物では温度変化に伴ってSCOが引き起こされ、それに連動して錯体周りの水素結合中にてプロトンの位置が変化することが示唆されている。本研究ではさらに、組み合わせているジカルボン酸のFをClに変えた化合物[Fe(L)2](H2ClPh) (H2ClPh = tetrachlorophthalic acid)の開発も行った。この化合物では、温度変化に伴いHS状態から、HS、LS状態が1:1で含まれる相に転移することが確認されている。この相での水素結合中のプロトン位置、また水素結合距離を調べることが出来れば、スピン状態の変化に連動したプロトン位置の変化、水素結合距離の変化について議論することが可能となる。しかしながら、この相の形成される温度が100 K以下であったため、実験室レベルでの結晶構造解析が困難であった。そこで、[Fe(L)2](H2ClPh)のHS、LS状態が1:1で含まれている相の結晶構造解析を、分子化学研究所の単結晶X線構造解析装置(Rigaku MERCURY CCD-2、Rigaku MERCURY CCD-3)を利用することで決定した。
2.実験(Experimental)
単結晶X線構造解析装置として、Rigaku MERCURY CCD-2、Rigaku MERCURY CCD-3を利用した。測定はヘリウムガスの吹き付けの下、80 Kで行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
80 Kにて[Fe(L)2](H2ClPh)の結晶構造解析を行ったところ、良質なデータを得ることが出来た。解析によって得られた構造中には、結晶学的に独立な鉄二価錯体、H2ClPh分子がそれぞれ一つずつ確認された。また、確認された鉄二価錯体の鉄周りの結合長を調べたところ、HS状態とLS状態で見られる結合長の平均の値となっていた。この結果から、[Fe(L)2](H2FPh)の結晶中にはHS錯体、LS錯体が1:1で含まれているものの、HS錯体、LS錯体は規則的に並んでおらず、静的にディスオーダーしていることが分かった。水素結合中のプロトン位置、水素結合距離に関する情報も、平均の値ではあるが、得ることが出来た。
4.その他・特記事項(Others)
低温での測定に辺り、ヘリウムボンベの交換方法等について、岡野 芳則 技術職員にご指導頂きました。ありがとうございました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 中西 匠、佐藤 治 日本学会第97春季年会, 平成29年3月18日
6.関連特許(Patent)
なし







