利用報告書
課題番号 :S-17-MS-1104
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :窒素を活性化する金属錯体の電子状態
Program Title (English) :Electronic State of Metal Complexes Activating Dinitrogen Molecule
利用者名(日本語) :増田秀樹1), 片山 精2)
Username (English) :H. Masuda1), A. Katayama2)
所属名(日本語) :1) 名古屋工業大学スマートマテリアル創成研究所, 2) 名古屋工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Nagoya Institute of Technology, 2) Nagoya Institute of Technology
1.概要(Summary )
生体系には、窒素とプロトンからアンモニアに変換する酵素ニトロゲナーゼが存在する。この活性中心は鉄とモリブデンと硫黄原子からなるFeMo-Cofactorと呼ばれるクラスター構造を形成している。しかし現在まで、どこで窒素が活性化され、どのようにアンモニアに変換されているか、そのメカニズムについては未解明のままである。我々はそのメカニズム解明の一環として、モリブデンに注目し、その窒素との結合及び活性化に取り組んできた。今回、P4型配位子のMo(0)錯体に窒素が2分子結合した錯体を合成し、その電気化学的および化学的に一電子酸化反応を行ったところ、窒素が活性化され、N≡N結合が切断され、Mo≡Nが形成されることが見出された。この時にできたMo≡N錯体の電子状態を解明するために、その電子スピン共鳴及び磁化率測定を行った。
2.実験(Experimental)
合成したMo≡N錯体は結晶構造が得られており、その形式酸化数はMo(IV)≡NかMo(III)=N+とあるいはその平衡状態にあると考えられた。しかし、この錯体のXANES測定からMo(0)の可能性が示唆されたため、Moの電子状態を明らかにしておく必要があった。そのため、この錯体のESR及び磁化率測定を行った。使用した装置は、ESR測定はBruker/EMX E500で、磁化率測定はQuantum Design/SQUID MPMS-XL7で、それぞれ4Kの極低温から室温まで測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
この錯体構造の模式図を右図に示す。実験項で記したように、この錯体の結晶構造は得られており。モリブデン中心の形式酸化数は4価あるいは3価カチオンラジカルである。しかし、XANESの結果からMo(0)錯体の可能性が示唆されており、その不可解な現象を検討するために、Mo原子の電子状態を検討することとした。この錯体のESRおよび磁化率を測定したところ、共に反磁性という結果を示した。ESR silentは、Mo(IV)ならばd2であり、偶数電子の場合、通常は観測されないので、理解できるが、磁化率が反磁性を示したということは、不対電子が存在しないことを示すものである。そのため、これらの結果は、この錯体のMoの電子状態が低スピン(S=0)Mo(IV)であることを示唆するものである。
4.その他・特記事項(Others)
参考文献(本研究の元になった研究)
1) “Efficient Catalytic Conversion of Dinitrogen to N(SiMe3)3 Using a Homogeneous Mononuclear Cobalt Complex”, ACS Catal., 8(5), 3011-3015 (2018) T. Suzuki, K. Fujimoto, Y. Takemoto, Y. Wasada-Tsutsui, T. Ozawa, T. Inomata, M. D. Fryzuk, and H. Masuda
2) “Electrochemical Evaluation of Titanocenes in Ionic Liquids with Non-coordinating and Coordinating Anions and Application for NH3 Synthesis”, ChemElectroChem, 4(12), 3053-3060 (2017), A. Katayama, T. Inomata, T. Ozawa, and H. Masuda
3) “Ionic Liquid promotes N2 Coordination to Titanocene(III) Monochloride”, Dalton Trans., 46, 7668-7671 (2017), A. Katayama, T. Inomata, T. Ozawa, and H. Masuda
4) “Electrochemical Conversion of Dinitrogen to Ammonia Induced by a Metal Complex-supported Ionic Liquid”, Electrochem. Commun., 67, 6-10 (2016), A. Katayama, T. Inomata, T. Ozawa, and H. Masuda
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし