利用報告書
課題番号 :S-18-NM-0071
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :糸状菌が産生する二次代謝産物の構造決定
Program Title (English) :Structure elucidation of secondary metabolites produced by filamentous fungi
利用者名(日本語) :増田圭恭, 二宮章洋, 萩原大祐
Username (English) :K. Masuda, A. Ninomiya, D. Hagiwara
所属名(日本語) :筑波大学生命環境系
Affiliation (English) :Faculty of Life and Environmental Sciences、University of Tsukuba
1.概要(Summary)
糸状菌は多様な二次代謝産物を産生することから新規有用物質の探索源として利用されてきたが,近年の配列解析技術の発展に伴い,糸状菌のゲノム中には既知の二次代謝産物の数を遥かに超える,膨大な数の未知化合物の生合成遺伝子が存在することが明らかになった。白癬の原因菌として知られる白癬菌は,糸状菌の中でもとりわけ多数の二次代謝関連遺伝子をゲノム中に有することから,有用物質の探索源として期待される。しかしながら,白癬菌が産生する二次代謝産物の構造に関する知見は乏しく,さらに,ゲノム中の二次代謝産物の生合成遺伝子について,その生合成産物が同定された前例はない。そこで,我々は,白癬菌を対象として,抗菌,または抗真菌活性を示す化合物の探索をおこなった。その結果,グラム陽性細菌に対して抗菌活性を示す化合物viomellein(1)を単離した。
2.実験(Experimental)
Trichophyton属3種,およびMicrosporum属2種を寒天培地上に生育させ,培養抽出物の抗菌,および抗真菌活性を評価した結果,Trichophyton属3種とMicrosporum属1種の抽出物がグラム陽性細菌に対して抗菌活性を示した。これら4種の白癬菌のうち,抽出物が最も高い抗菌活性を示したTrichophyton rubrumの産生する抗生物質を同定することとした。
T. rubrumを100枚の寒天培地上で培養し,培養物を凍結乾燥させた後,メタノールおよび酢酸エチルで抽出した。抽出物を順次二層分配,ODSフラッシュカラムクロマトグラフィー,HPLCによって精製し,活性物質1(6.2 mg)を得た。当該物質について,NMR(JEOL ECS-400,NIMS所有),HPLC,およびLC-MSを用いて構造の解明を試みた。
3.結果と考察(Results and Discussion)
高分解能ESI-MSを用いた解析の結果,化合物1は糸状菌が産生する色素として知られるviomelleinと同一の分子量を有することが示唆された。次に,1の構造を明らかにするためにNMRスペクトルを測定したが,シグナルがブロードになる傾向があり,構造決定には至らなかった。そこで,HPLC分析における保持時間を標品と比較することによって,1をviomelleinと同定した。
種々検討の結果,化合物1はメタノール中で他の化合物へと変換されることが明らかになった。NMR測定用のサンプルを調整する段階で化合物1をメタノールに溶解した際に1が分解したことによって,質のよいNMRデータが得られなかったと推定している。
本研究によって,白癬菌が抗生物質viomelleinを産生することが初めて明らかになった。今後は当該物質の生合成遺伝子を同定する予定である。
4.その他・特記事項(Others)
NIMS李潔様にNMR使用法講習を受けた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
K. Masuda, A. Ninomiya, T. Yaguchi, S. Urayama, D. Hagiwara, 日本農芸化学会2019年度大会, 平成31年3月26日
6.関連特許(Patent)
なし。