利用報告書

純有機磁性金属κ-β′′-(BEDT-TTF)2(PO-CONHC2H4SO3)の低温ESR測定 II
圷 広樹1)
1) 大阪大学大学院理学研究科

課題番号 :S-16-MS-1055
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :純有機磁性金属κ-β′′-(BEDT-TTF)2(PO-CONHC2H4SO3)の低温ESR測定 II
Program Title (English) :Low Temperature ESR measurements ofκ-β′′-(BEDT-TTF)2(PO-CONHC2H4SO3) II
利用者名(日本語) :圷 広樹1)
Username (English) :H. Akutsu1)
所属名(日本語) :1) 大阪大学大学院理学研究科
Affiliation (English) :1) Osaka University

1.概要(Summary )
以前、我々は施設利用により、κ-β′′- (BEDT-TTF)2(PO-CONHC2H4SO3)のESR測定を行った(BEDT-TTF = Bis(ethylenedithio)tetrathiafulva- lene, PO = 2,2,5,5-Tetramethyl-3-pyrrolin-1-oxyl Free Radical)。SQUID測定は磁気相互作用が1次元的であることを示唆していたが、このESRの測定結果より実際は2次元的であることが分かった。結晶構造より、1次元的相互作用はラジカル間の直接相互作用により実現できるが、2次元的相互作用を起こすためには 、自由電子を有するドナー層を介したラジカル間相互作用が起きていることが必要になる。しかし、g値の角度依存が室温と最低温で異なるという不思議なことがあった。そこで今回再測定を行った。

2.実験(Experimental)
g値はスピンが存在する分子の形や環境によって決まるものなので、その異方性は温度変化では普通変わらない。前回はESRサンプルチューブの中にストローの切れ端を入れ、その上にサンプルを固定した。しかし、このストローの切れ端が低温で変形してサンプルの方向が変化したり、ストローの切れ端が動いたりしたためにg値の角度依存が変化した可能性がある。そこで今回はテフロン板を用い、ESR管に固定して動かないようにして測定に用いた。電子スピン共鳴装置 Bruker E500を用いて次の(1)-(3)を行った。(1)室温で角度依存(0-190度)を測定した。(2)最低温(4 K)で角度依存(0-190度)測定を行った。(1)と(2)の結果、g値の角度依存の結果は前回の結果を再現する、(1)と(2)は異なることがわかったので、続いて(3)を行った。(3) 5, 10, 25, 50, 100, 200, 290 Kにて角度依存を測定し、各温度でのg値の角度依存を測定した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に各温度でのg値の角度依存を示した。
図1 各温度でのg値の角度変化
このように25 Kを境にg値の大小関係が入れ替わっていることが分かる。このスピンはPOラジカルに局在しているはずで、その化学的環境が温度変化することは考えにくい。我々は今の所、この変化はBEDT-TTF上の伝導電子とラジカルスピンとの相互作用によって起こっているのではと推測している。只今、分子研山本グループと共同研究を行っていて、ラマンスペクトルでの解明を進めている。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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