利用報告書

紫外線光電子分光法を用いたイオン伝導性酸化物の電子状態解析
松尾拓紀1), 小城元1), 田所洸1), 那須雄太1), 福田一峻1), 大友順一郎1)
東京大学大学院新領域創成科学研究科

課題番号 :S-18-JI-0042
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :紫外線光電子分光法を用いたイオン伝導性酸化物の電子状態解析
Program Title (English) :Electronic structure analysis of ion-conducting oxides by ultraviolet photoelectron spectroscopy
利用者名(日本語) :松尾拓紀1), 小城元1), 田所洸1), 那須雄太1), 福田一峻1), 大友順一郎1)
Username (English) :H. Matsuo1), G. Kojo1), H. Tadakoro1), Y. Nasu1), K. Fukuda1), J. Otomo1)
所属名(日本語) :1) 東京大学大学院新領域創成科学研究科
Affiliation (English) :1) Department of Frontier Sciences, The Unviersity of Tokyo

1. 概要(Summary )
プロトン伝導性や酸化物イオン伝導性を示すイオン伝導性固体酸化物は、固体酸化物型燃料電池や電解セルの電解質として用いられ、水素をはじめとする次世代クリーンエネルギーの利用・製造に欠かせない材料である。イオン伝導体内部においては可動イオン種のみならず、電子・ホールも拡散が可能であるが、電子・ホール伝導は燃料電池内部のリーク電流を引き起こし、エネルギー効率の低下を招く。このためイオン伝導体の電子・ホール伝導を含めた輸送特性の制御が重要な課題となっている。我々は電子・ホール伝導特性の制御に向け、異なる電解質材料の接合界面での輸送現象に着目している。接合界面での輸送現象は接合する材料同士の電子状態・バンド構造によって変化するが、多くのイオン伝導体ではそれらの基礎物性は明らかにされていない。本研究では紫外線光電子分光法により、種々のイオン伝導性固体酸化物の電子状態を明らかにし、イオン伝導体のバンド構造制御の指針を構築し、界面における輸送特性の制御に展開することを目指す。
2.実験(Experimental)
電解質材料の紫外線光電子分光測定には正・逆光電子分光装置(テックサイエンス製、PYS-200+IPES)を用いた。測定には鏡面研磨したPt箔上に、厚さ約20 nmの酸化物イオン伝導体をパルスレーザー堆積(PLD)法により成膜した薄膜試料を用いた。イオン伝導体としては代表的なプロトン伝導性酸化物であるBaZr0.8Y0.2O3−(BZY20)、SrZr0.95Y0.05O3−(SZY5)、La28−xW4+xO54+3x/2v2−3x/2 (LWO67)や酸化物イオン伝導性を示すCaTi0.8Fe0.2O3−(CTFO)およびSrTiO3などを対象とした。
3.結果と考察(Results and Discussion)
代表的測定例としてBZY20およびSZY5の薄膜試料における光電子収量(PYS)測定の結果を図1に示す。BZY20、SYZ5のPYSの立ち上がりはそれぞれ約7.2 eV、約7.7 eVとなり、SZY5の価電子帯上端位置がBZY20に比べ、約0。5 eV深い位置に存在することが示唆された。この原因として、Ba2+に比べイオン半径の小さいSr2+がペロブスカイト構造のAサイトを置換することで、ZrとOで構成されるZrO6八面体の回転とZr-O-Zrの結合角の減少が誘起され、Zr-4d軌道とO-2p軌道との相互作用が弱まった結果、Zr-4d + O-2p混成軌道の準位がシフトしたものと推察される。石英ガラス上に成膜したこれらのイオン伝導体薄膜の光学吸収・反射スペクトルからも、BZY20に比べSZY5は光学吸収の立ち上がりが短波長側に存在しワイドギャップ化していることが確認されており、今回の紫外線光電子分光法の結果と併せ、Ba2+をSr2+で置換することでバンド構造の制御が可能であることが示された。
4. その他・特記事項
PYS、IPES測定は北陸先端科学技術大学大学院、村上達也様、木村一郎様のご指導をいただきました。感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。
6.関連特許(Patent)
なし。

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