利用報告書

複合機能性鉄錯体の凍結相と光誘起相の極低温構造解析
高橋一志1), 石川忠彦2) (1) 神戸大学大学院理学研究科, 2) 東京工業大学理学院)

課題番号 :S-20-MS-1085
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :複合機能性鉄錯体の凍結相と光誘起相の極低温構造解析
Program Title (English) :Low temperature crystal structure analysis of the quenched and photoinduced phases for the multifuncional Iron complex
利用者名(日本語) :高橋一志1), 石川忠彦2)
Username (English) :K. Takahashi1), T. Ishikawa2)
所属名(日本語) :1) 神戸大学大学院理学研究科, 2) 東京工業大学理学院
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science、Kobe University, 2) Graduate School of Science、Tokyo Institute Technology

1.概要(Summary )
 準安定状態の結晶構造を明らかにすることは、準安定状態生成メカニズムを解明するために重要な情報を与える。本研究の対象である複合機能性鉄(III)スピンクロスオーバー錯体は、磁化の熱緩和温度(50-100 K)の違いから、急冷凍結相と励起波長により二種類の光準安定相を持つことが示唆されている。昨年度、532 nmの光照射前後のX線回折像の変化を観測し、光誘起相の一つの存在を示唆する結果を得た。今回、準安定相の構造解析を進めるため、まず急冷凍結相の結晶構造解析を行い、続いて熱緩和相、光誘起相の順で結晶構造解析を試みたので報告する。
2.実験(Experimental)
 複合機能性スピンクロスオーバー錯体はそれぞれの構成成分錯体の複分解反応で合成した。ミクロ単結晶/Rigaku HyPix-AFCとヘリウム冷凍機を組み合わせたシステムを用い、①室温、②室温から急冷した20 K、③急冷したサンプルを110 Kまで昇温後再び20 Kに温度設定し、それぞれの温度で単結晶X線構造解析を行った。さらに③の測定後20 Kにおいて532 nmのレーザー照射を行い、光照射後の結晶構造解析も検討した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 光照射により結晶全体を変化させるため、10 μm前後の厚みを持つ単結晶を選び、室温で構造解析した。続いて、ヘリウムガスの気流をカードで遮り、20 Kまで冷却した後、カードを取り除きガス流路を回復させようとしたが、固化した空気中の水蒸気または窒素の影響で結晶が破損してしまった。そこで、20 Kのヘリウムガス気流中に室温でサンプリングした結晶を入れゴニオヘッドの中心を合わせた。そのままX線回折測定を行ったところ、構造解析に成功した。このように比較的容易に急冷凍結相を作ることができることがわかった。凍結相の金属錯体分子の構造を見ると、鉄周りの配位結合長と結合角から鉄(III)錯体カチオンは高スピン状態であり、ニッケル錯体アニオンは論文で報告されている低温相とは異なる二量体を形成していることが明らかとなった。続いて、110 Kまで昇温後、再度20 Kまで冷却し熱緩和相の構造解析を行ったところ、これまでに報告されている低温相と同じ構造であることがわかった。さらに、熱緩和相の結晶をφ軸で回転させながら532 nm, 0.31 W/cm2のレーザー光を20 Kで照射し、光照射後のX線回折点の変化を観測した。20分程度の光照射で昨年度と同様回折点の割れが観測されるものの、1時間の光照射でも回折点は割れたままで変化がなくなった。この状態でX線回折測定を行い構造解析を試みたが、残念ながら構造解析に成功しなかった。今後の課題として、さらに薄く良質な単結晶と強いX線源を利用する必要性があることが明らかとなった。
4.その他・特記事項(Others)
 本研究は、科研費基盤研究(C)19K05402と特別推進研究18H05208により行われた研究である。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 中野真之介, 石川忠彦, 田久保耕, 沖本洋一, 腰原伸也, 東亮介, 宮脇敦大, 高橋一志, 佐藤文菜, 一柳光平, 深谷亮, 第76日本物理学会年次大会, 令和3年3月12−15日.
6.関連特許(Patent)
 なし。

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