利用報告書

赤外メタサーフェス 
高原淳一(大阪大学, 大学院工学研究科, 物理学系専攻)

課題番号 :S-20-OS-0015 
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :赤外メタサーフェス 
Program Title (English) :Infrared Metasurface
利用者名(日本語) :高原淳一
Username (English) :Junichi Takahara
所属名(日本語) :大阪大学, 大学院工学研究科, 物理学系専攻
Affiliation (English) :Dep. of Applied Physics, Grad. School of Engineering, Osaka University

1.概要(Summary)
メタマテリアル(metamaterial)とはメタ原子(metaatom)とよばれる人工的な光共振器構造を多数並べて構成される3次元有効媒質である。メタサーフェス(metasurface)とは2次元のメタマテリアルのことをいう。
我々はオーム損失の極めて少ない誘電体メタサーフェスに注目して研究を行っている。これまでに石英基板上に直方体型や円筒型のシリコン(Si)ナノ光共振器を配置し、反射・透過・吸収スペクトルの制御を実現してきた。
近年、光学特性を動的に変化させるアクティブメタマテリアル/メタサーフェスの研究がさかんに行われている。金属・絶縁体相転移材料として知られる二酸化バナジウム(VO2)をメタサーフェス構造の一部に導入することで、相転移による誘電体から金属(負誘電体)という誘電率の大きな変化により、メタサーフェスの光学特性を大きく変化させることができる。我々はVO2を用いてメタサーフェスを作製し、反射スペクトルを温度により変化させることに成功してきた。このような温度による光学特性の変化を吸収率(輻射率)の制御に応用することにより適応型放射冷却(adaptive radiative cooling)を実現できる[1-3]。放射冷却素子とは地球上の熱(300K)を「大気の窓」とよばれる大気の透明波長域(8-13μm)を通して宇宙空間(3K)に逃がすことにより、電力を使うことなく物体を冷却できるデバイスである。
本研究ではVO2を用いたメタサーフェスによる放射冷却素子の適応型輻射率制御を試みた。VO2をメタ原子の基層に用いることで温度によりメタサーフェスの輻射率をON/OFFさせ、熱輻射スペクトルの制御を実現した。

2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
位相変調型分光エリプソメーター
パルスレーザーMBE装置(PLD)

【実験方法】
パルスレーザーMBE装置を用いてPLD法により厚さ300nmのVO2薄膜を作製した。基板にはSi(100)基板を使用した。また、ターゲットとしてバナジウム酸化物の中で最も安定であり、酸化によって組成が変化しにくいV2O5を用いた。成膜後の位相変調型分光エリプソメーターによる誘電率の計測の結果、VO2薄膜が形成されていることが確認された。作製したVO2薄膜上にRFスパッタ装置を用いてアモルファスSi(a-Si)層を800nm蒸着した。次に、基板上に塗布したレジストに高精細電子線リソグラフィー装置を用いてパターンを描画した。現像の後、RFスパッタ装置によりマスクとしてアルミナ(Al2O3)薄膜を50nm形成した。リフトオフ後、ドライエッチング行い、厚さ1 μm、直径2 μm、周期5 μmのa-Si/VO2メタサーフェスを作製した(Fig.1)。
作製した素子をヒーターにセットし、基板温度をVO2の相転移温度68℃の上下で変化させながら、FT-IR(BRUKER, VERTEX 70v)によりメタサーフェスの赤外反射率スペクトルの顕微分光を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
Fig. 2に温度24℃(以下、低温とよぶ)および100℃(以下、高温とよぶ)における赤外反射率から求めた吸収率スペクトルを示す。吸収率(キルヒホッフの法則より輻射率に等しい)は低温では低く、高温にすると赤外域9~10μmでほぼ1の完全吸収体となることがわかる。この結果はシミュレーションとも良い一致を示した。このようにVO2を用いると相転移温度の上下で吸収率を大きく変化させることができる。
このような特性は温度が高い場合のみ放射冷却素子を自動的にONにして(大気の窓の輻射率を高くして)熱を効率よく宇宙空間へと逃がす適応型制御に応用できる。

4.その他・特記事項(Others)
各装置の操作方法について御指導を頂いた分子・物質合成PFの支援員の方に感謝いたします。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 高瀬博章, 高原淳一:「VO2を用いたアクティブ誘電体メタサーフェスによる吸収率制御」、第81回応用物理学会秋季学術講演会 10p-Z17-6(オンライン)2020年9月10日.
(2) 高原淳一:「プラズモニックメタサーフェスによる放射冷却素子」、日本学術振興会 メタマテリアル第187委員会 第2回研究会 (オンライン) 2020年10月17日(招待講演).
(3) 高瀬博章, 高原淳一:「VO2を用いた誘電体メタサーフェスにおける適応型放射冷却」、第68回応用物理学会春季学術講演会 17a-Z05-7(オンライン)2021年3月17日.(発表予定)

6.関連特許(Patent)
 なし

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