利用報告書

走査型プローブ顕微鏡用金属探針の分析評価
新井 豊子
金沢大学

課題番号 :S-20-JI-0030
利用形態 :機器利用支援
利用課題名(日本語) :走査型プローブ顕微鏡用金属探針の分析評価
Program Title (English) :Analysis and evaluation of metal tips for scanning probe microscope
利用者名(日本語) :新井 豊子
Username (English) :T. Arai
所属名(日本語) :金沢大学
Affiliation (English) :Kanazawa University

1. 概要(Summary )
我々は、走査型プローブ顕微鏡(SPM)の複合機である非接触原子間力顕微鏡(nc-AFM)/走査型トンネル顕微鏡(STM)を独自開発した。本装置では、金属探針を音叉型水晶振動子に取り付けたnc-AFM用力センサー(独自デザインの共振再調整(RTF)力センサー)を用いる。本nc-AFM/ STMにより、探針試料間に働く保存的相互作用力、非保存の相互作用による散逸エネルギー、トンネル電流を同時検出する。この機能により、非接触で試料及び探針の表面抵抗を計測できることを見いだした[1]。計測される表面抵抗値は、探針先端半径程度の探針先端曲面と試料表面の抵抗の直列結合である。よって、試料表面の局所的な表面抵抗を測定するためには、金属探針の先端が原子レベルで鋭利であり、酸化膜や、有機汚染物がなく、電気抵抗が低いことが求められる。我々は、金属探針先鋭化法として、タングステン線を酸化性の炎の中で、酸化と昇華を繰り返す新たなエッチング法を試みている。エッチング条件を変えて作製したタングステン探針をオージェ分光分析顕微鏡により、形状観察及び、表面に残留した炭素(有機汚染物)および酸素(酸化膜)量を評価した。また、超高真空チャンバー内で、先鋭化したタングステン探針を輻射加熱し、炭素および酸素の除去条件を探った。
[1] T. Arai, D. Kura, R. Inamura, and M. Tomitori, “Resistivity change in Joule heat energy dissipation detected by noncontact atomic force microscopy using a silicon tip terminated with/without atomic hydrogen”, Jpn. J. Appl. Phys., 57, 08NB04 (2018).
2.実験(Experimental)
タングステン探針先鋭化法として、炎エッチングを導入した。燃焼ガスには、水素酸ガス(H2:O2 = 2:1)を用いた。タングステン線は、400度以上の酸素雰囲気中で容易に酸化され、酸化膜は800度以上で、昇華する。すなわち、タングステン線を酸化性の炎の中に入れると、酸化と昇華を繰り返してエッチングされる。酸化及び昇華速度は、高温ほど速いため、内炎部に入れた部分が外炎部よりもエッチング速度が速い。このエッチング速度差により、タングステン線は先鋭化される。また、炎エッチング直後、タングステン温度が1000度以上ある時に大気にさらすと、そこで表面に酸化膜が形成されると考えられるため、金属ボックス内に窒素を充満させた環境でも、炎エッチングを行った。
また、超高真空導入後の汚染物除去法として、熱源を探針正面に配置して、輻射加熱を行った。大気暴露せずにオージェ分光評価を行うために、オージェ分光分析顕微鏡(アルバックファイ社製SAM670Xi)に取り付けられている試料準備チャンバーにTa箔を加熱体とするヒーターを構築した(図1)。
エッチング条件を変えて作製したタングステン探針を音叉型水晶振動子のプロング先端に接着してRTF力センサーとした後、探針先端のSEM観察及び、オージェ分光分析を行い、さらに、輻射加熱による探針変化を評価した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図2に、エッチングしたタングステン探針先端(赤線)、及び、水晶振動子に接着した後のタングステン探針(青線)のオージェ電子分光スペクトルを示す。

炎エッチングしたタングステン探針は、炭素C(有機汚染物)および酸素O(酸化膜)は存在するが、タングステンWのスペクトルも観察され、炭素や、酸素はそれほど厚くはないことが示唆される。しかし、エポキシ接着剤で、水晶振動子に接着したタングステン探針上にSiが堆積し、タングステンのピークが見えなくなった。Siが堆積した原因について、エポキシ硬化のための加熱オーブンや、接着剤の種類、水晶振動子からの付着等を検討している。
水晶振動子に接着後のSi付着については未解決のため、超高真空中での熱処理効果については、エッチングしたタングステン探針を用いた。タングステン先端をTa加熱源から2 mm程度の距離に配置し、1200 ℃・1分、1300 ℃・3min、1500 ℃・3分、1600 ℃・3分、1600 ℃・5分、1700 ℃・5分と加熱、オージェ測定を繰り返した。しかし、探針形状、オージェスペクトルともにほぼ変化しなかった。そこで、探針と1400 ℃に加熱したTa箔との間に-900 V印加し、探針の表面原子を電界蒸発させる熱・電界(TF)処理を試みた。TF処理の配線図を図3に示す。TF処理(10分)の前(赤線)・後(青線)のオージェ電子分光スペクトルを図4に示す。TF処理においても、探針に残留している炭素及び酸素を取り除くことはできなかった。加熱機構の構造上、探針をグランドにし、平面電極(加熱限)に高圧を印加したが、探針先端の電界集中が不十分であったと考えている。探針に高圧をかけた、TF処理を今後検討する予定である。

4.その他・特記事項(Others)
オージェ分光分析顕微鏡(SAM670Xi)使用に当たり、ご協力頂いた富取正彦先生に感謝いたします。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし
6.関連特許(Patent)
なし

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