利用報告書

超広帯域光電変換を実現するIII族窒化物薄膜の電子-格子相互作用の解明
園田早紀, 立溝信之
京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科

課題番号 :S-15-MS-1062
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :超広帯域光電変換を実現するIII族窒化物薄膜の電子-格子相互作用の解明
Program Title (English) :Study on electron-phonon interaction of III-nitrides for wide-band photoelectric conversion
利用者名(日本語) :園田早紀, 立溝信之
Username (English) :S. Sonoda, N. Tatemizo
所属名(日本語) :京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科
Affiliation (English) :Kyoto Institute of Technology

1.概要(Summary )
紫外-可視-赤外超広帯域光電変換を可能とするマルチバンドギャップ物質として期待される、3d遷移金属(3dTM)添加AlN薄膜を合成し、共鳴ラマン散乱実験から電子バンド構造の詳細とその電子-格子相互作用の解明を試みた。また、磁化特性評価実験からAlN中の3d遷移金属の電子状態を調べ、電子バンド構造との相関の解明を試みた。

2.実験(Experimental)
試料は、RFスパッタ法でSiO2ガラス基板、Si(111)基板、Ti金属板上などに成膜したもので、Ti、V、Cr、Mnを0.5at%から20at%まで添加したAlNである。(3dTM濃度は、対カチオンである。)膜厚は約2μmとした。いずれも、X線回折実験から、c軸配向性ウルツ鉱型をとっていることを確認している。
磁化特性評価は、SiO2基板上に成膜した2%、12%の3dTMを添加したAlNを対象として、SQUID型磁化測定装置(Quantum Design MPMS-XL7)を用いて、2K、10Kの低温で磁化の磁場依存性(M-H曲線)測定を行った。最大磁場は7Tとした。SiO2基板のM-H曲線も測定し、3dTM添加AlN/SiO2試料のM-H曲線から差し引き、このデータを、低温常磁性飽和を仮定してブリルアン関数でフィットすることで、価数評価を行った。
共鳴ラマン散乱実験では、顕微レーザーラマン分光装置(RENISHAW inVia Reflex)を用いた。波長は、488nm(2.54eV)、532nm(2.33eV)、633nm(1.96eV)、785nm(1.58eV)とした。いずれの試料に対しても、入射光の偏光面に対して、平行と垂直を測定した。非添加AlNも併せて測定し、後方散乱で非共鳴状態での選択則に沿ったラマン散乱ピークが得られることを確認した。3dTM添加AlN薄膜については、共鳴増大強度などを評価した。測定温度は室温とした。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 M-H曲線分析による価数評価、共鳴ラマン散乱スペクトルのいずれも、現在、論文投稿準備中である。ここでは、図表の記載は控え、磁化測定結果と考察の文章のみ記載する。V、Crは、すでにX線吸収端微細構造(XANES)測定(K端、高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリー、KEK-PF)の解析結果から、AlN中のAl3+を置換固溶したときに実現する3価であることが明らかになっている。本磁化特性では、常磁性飽和を想定しているため、3dTM間の直接相互作用が起こらない低濃度試料に限られるが、これに一致し、磁化特性からも3dTMが置換固溶して存在することが示された。また、高濃度の場合は、孤立イオンの応答から外れることが確認され、超高効率光電変換実現に必要な、中間バンドの形成を示唆する3d軌道(電子)間の相互作用が起こっている可能性を示唆する結果が得られた。一方、Tiについては、価数が3価と異なることを示唆する結果となり、これもXANES測定による解析結果と一致した。この結果が、XRD測定などから得られた結果とどのように矛盾なく発現するかを明らかにするため、第一原理計算によるバンド構造計算を遂行している。
 
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 立溝信之、園田早紀、山根宏之、田中 清尚、 応用物理学会春季学術講演会, 平成28年3月21日
6.関連特許(Patent)
なし

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