利用報告書
課題番号 :S-20-NR-0009
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :輸送チャンネル設計ができる試験研究用スマートメンブレンの開発
Program Title (English) :Development research of smart membrane with designable transport channels
利用者名(日本語) :彌田智一
Username (English) :T. Iyoda
所属名(日本語) :同志社大学 ハリス理化学研究所
Affiliation (English) :Doshisha University, Harris Science Research Institute
1.概要(Summary )
本利用者の開発した両親媒性液晶ブロックコポリマー(ℓBC)薄膜は、特異な液晶誘起ミクロ相分離によって、親水性ポリエチレンオキシド(PEO)からなる垂直貫通シリンダー構造を大面積で自発形成する。本利用者は、このPEOシリンダー構造を輸送チャンネルとする革新膜(スマートメンブレン)の用途開発を行っている。膜透過の対象は、従来膜の海水の淡水化や有価物質回収など大規模処理と異なり,バイオ・医療の分野で重要なDNA,タンパク質,糖鎖など,少量多品種であり、その前処理や分離・精製の高速スクリーニングが望まれる。本研究は、ユーザーによる輸送チャンネルの内壁修飾できるポスト機能化を造り込み,膜用途開発の高速スクリーニングを目的とする。本利用課題では、NAISTナノテクプラットフォームによる透過型電子顕微鏡を用いたナノ構造評価を行った。
2.実験(Experimental)
あらかじめアルギン酸ナトリウム水溶液を成膜した多孔質ポリスルホン(PSf)サポート上に、ℓBCの1,1,2-トリクロロエタン(TCE)溶液を、バーコーターを用い塗工した。この複合膜を、熱アニーリングすることによって、垂直貫通PEOシリンダー構造を形成させ、紫外線架橋した。この複合膜に対し、分子量400~58,000 kDaのPEO混合水溶液を透過させ、そのサイズ選択的除去率を評価した。
従来、ℓBC薄膜のPEOシリンダー構造は、100kV透過電子顕微鏡、原子間力顕微鏡、走査型原子顕微鏡、斜入射X線小角散乱を活用し、多角的に評価してきた。本利用課題では、加速電圧の高い200kVおよび300kVの透過電子顕微鏡による観察を試みた。ITO蒸着ガラス上のℓBCスピンコート膜を、熱アニール・紫外線架橋後、希塩酸水溶液に浸漬し、ℓBC剥離膜得た。
3.結果と考察(Results and Discussion)
得られたℓBC複合膜の、PEO混合水溶液によるサイズ選択的除去率を例示する。PSfサポートの90%除去サイズが10nm程度で、分画曲線がなだらかであったのに対して、わずか200nm厚のℓBC複合膜は、90%除去サイズ2nmで、急峻な分画特性を示した。
加速電圧が200kVおよび300kVの透過電子顕微鏡よって、ℓBC剥離膜のPEOシリンダー構造を観察できた。今後、ℓBC複合膜の剥離膜およびマイクロトームによる膜断面切片のナノ構造評価プロセスを確立するために、膜厚や染色など試料作製の最適化図る予定である。
4.その他・特記事項(Others)
NAIST技術職員藤原正裕氏に、ℓBC薄膜の200kVおよび300kV透過電子顕微鏡観察をしていただき、試料作製のご指導と有益なディスカッションをいただいた。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Y. Hibi, Y. Oguchi, Y. Shimizu, K. Hashimoto, K. Kondo, T. Iyoda, Proc. Natl. Acad. Soc., 117 (35), 21070-21078(2020).
6.関連特許(Patent)
(1) 彌田智一、日比裕理, “ブロック共重合体、ミクロ相分離構造膜の製造方法、及び該製造方法により得られたミクロ相分離構造膜”, 特許第6839912号 令和3年2月18日