利用報告書

遷移金属カルコゲナイドへの強い電子状態変調を示すヘテロ接合構築に関する研究
桐谷乃輔
大阪府立大学大学院工学研究科

課題番号 :S-20-NR-0025
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :遷移金属カルコゲナイドへの強い電子状態変調を示すヘテロ接合構築に関する研究
Program Title (English) :Heterojunction junction formation with TMDC for the electronic structure
modulation
利用者名(日本語) :桐谷乃輔
Username (English) :Daisuke KIriya
所属名(日本語) :大阪府立大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Osaka Prefecture University

1.概要(Summary )
半導体物質として近年脚光を浴びている遷移金属カルコゲナイドは、MX2 (M = 遷移金属原子, X = カルコゲン原子)と表され、一層あたり0.7 nm厚の層状の結晶性化合物である。二次元面内において閉じた結合様式を示し、ダングリングボンドが少なく、また、原子スケールで高平坦性を有する物質である。そのため、電界効果型デバイスや量子デバイスへの展開が進められている。良質なデバイスを実現するためには、この半導体物質の電子状態を制御する必要がある。しかしながら、数原子の極薄の骨格であるが故に、電子状態を任意に変調する手法は限られており、現在も研究の対象となっている。我々はこれまでに、化学的な溶液法を用いた遷移金属カルコゲナイドの電子状態変調法の開拓を進めてきた。本利用申請では、最近我々のグループにおいて確認された遷移金属カルコゲナイド表面への特異な分子相互作用を調べるため、奈良先端科学技術大学院大学の設備を利用させて頂いた次第である。なお、相互作用の詳細は現在検証中であるが、「電子ドナーとしての性質を持たない」にも関わらず、ある種のアミド系分子において、MoS2に対する強い電子ドナー能を確認している。また、この特異な相互作用は、MoS2の前処理過程に強く依存することも分かっている。そこで、前処理前後の表面状態の比較を目的として、実験を遂行した。
2.実験(Experimental)
多機能走査型X線光電子分光分析装置(XPS)を利用した分析を行った。測定には、岡島康雄様の協力を得、測定スペクトルに対して、武田さくら助教の協力を得ることで、円滑な実験・解析が可能となった。測定サンプルの調整は申請者らによって行い、金を蒸着したシリコン基板上へ単離した二硫化モリブデン(MoS¬2)に対して、各前処理工程を実施した上で実験に用いた。MoS2は、機械剥離法により単離し、前処理工程として、フォーミングガス(窒素4%)アニーリング、または酸化を行い、XPS測定を実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
未処理サンプル、フォーミングガス処理後のサンプル、および酸化したサンプルに対して、XPS測定を行った。全てのMoS2を基盤物質とするサンプルにおいて、明確なMoおよびSに由来するシグナルが観測されたものの、サンプル間におけるシグナルの形状および強度に明確な違いは見られなかった。XPSで検出できる分解能においては、状態の保持が示唆された。興味深いことは、上述した各前処理工程を経ると、分子の相互作用に伴うMoS2の電子状態に明確な違いが見られることから、分子の表面吸着挙動が違うという点である。従って、本実験結果により、表面における僅かな違いを分子種が認識している可能性が示唆され、さらなる検証の必要性が明かとなった。
4.その他・特記事項(Others)
本研究の実施にあたり、岡島康雄様および武田さくら助教の多大なご協力を賜ることで円滑に実施することができました。心より感謝の意を示します。また、本研究は「2020年度試行的利用の採択を受け実施した。」
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 桐谷乃輔、分子研研究会、2021年3月(招待講演)
(2) 福井暁人他、日本化学会 第101回春季年会、2021年3月.
(3) 福井暁人他、第68回応用物理学会春季学術講演会、2021年3月.
6.関連特許(Patent)
なし

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