利用報告書
課題番号 :S-18-MS-1061
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :配座設計に基づくタンパク質高親和性糖鎖の創出
Program Title (English) :Creation of lectin high affinity glycans based on designing the dynamical conformations
利用者名(日本語) :中根健汰, 山口拓実
Username (English) :K. Nakane, T. Yamaguchi
所属名(日本語) :北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科
Affiliation (English) :School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology
1.概要(Summary )
糖鎖は、タンパク質とは異なり、分子生物学手法による試料調製法が十分に確立されていない。また一般に、天然に存在する糖鎖は大きな構造不均一性を有している。そこで本課題では、有機化学アプローチによる試料調製と、等温滴定型熱量測定(ITC)を基軸とした糖鎖の相互作用解析を実施し、糖認識タンパク質(=レクチン)が標的糖鎖を識別する機構の詳細解明に取り組んだ。化学合成によって調製した均一な糖鎖試料を用いて物理化学計測を実施することで、糖鎖−タンパク質間の動的な相互作用に関する精密情報の取得を行った。
2.実験(Experimental)
糖鎖基質の分子設計はレプリカ交換分子動力学シミュレーションによる大規模配座探査に基づいて行った。タンパク質は大腸菌発現系によって調製し、化学合成した各種糖鎖試料をタンパク質溶液へ滴下してITCによる相互作用解析を行った。測定には、分子科学研究所機器センター所有の等温滴定型カロリメーター MicroCal社製iTC200を使用した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
細胞内において糖鎖は、糖タンパク質の品質を表示するタグとして機能し、フォールディング、輸送、分解といった糖タンパク質の生体内運命の決定に寄与している。こうした機構において、糖鎖と種々のレクチンとのダイナミックな相互作用が重要な役割を果たしている。本研究では、レクチン活性を有する小胞体分子シャペロンであるカルレティキュリン(CRT)の基質認識機構の理解と、それに基づいた高親和性糖鎖基質の設計を行った。
分子シミュレーションやNMR計測を組み合わせたこれまでの研究結果から、CRTは配座選択と誘導適合を組み合わせた分子認識機構をもつことがわかってきた。そこで、この動的な相互作用システムの理解を深めるために、遊離状態の糖鎖の立体構造を変化させることでレクチンとの親和性を制御することを考えた。天然型の糖鎖−タンパク質複合体の結晶構造情報と、大規模分子シミュレーションによる遊離糖鎖の配座空間情報に基づいて、コンフォメーションを制限した新規糖鎖基質を設計した。化学合成した糖鎖基質を用いてITCによる定量的解析を行った結果、相互作用に伴うエンタルピーおよびエントロピーの変化に顕著な違いを見出すことができた。
4.その他・特記事項(Others)
本研究の成果は、加藤晃一博士(生命創成探求センター/分子科学研究所)らの研究グループとの共同研究により得られたものです。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 中根健汰, 鈴木達哉, 谷中冴子, 加藤晃一, 山口拓実, 生体機能関連化学部会若手の会 第30回サマースクール, 平成30年7月19日.
(2) Takumi Yamaguchi, JAIST Japan-India Symposium on Advanced Science 2019, 平成31年3月7日.
(3) 中根健汰, 鈴木達哉, 谷中冴子, 加藤晃一, 山口拓実, 日本化学会第99春季年会, 平成31年3月17日.
6.関連特許(Patent)
なし