利用報告書

酸化亜鉛結晶のテラヘルツ波吸収に関する研究
加藤康作1), 中嶋誠1)
1) 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター

課題番号(Application Number): S-16-NR-0043
利用形態(Type of Service):技術代行
利用課題名(日本語) :酸化亜鉛結晶のテラヘルツ波吸収に関する研究
Program Title (English) :Study on terahertz-wave absorption of ZnO crystals
利用者名(日本語) :加藤康作1), 中嶋誠1)
Username (English) :Kosaku Kato1), Makoto Nakajima1)
所属名(日本語) :1) 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター
Affiliation (English) :1) Institute of Laser Engineering, Osaka University

1.概要
ZnO結晶は供給元やロットによってテラヘルツ(THz)波透過率が大きく異なることがある。ZnO結晶の成長によく用いられる水熱合成法ではLiOHやKOHが溶解液として用いられ、LiやKが結晶中に残留する[1]。そこで、本研究ではTHz透過率とLiやKの残留量との間に相関があるのではないかとの予想の元、ZnO結晶中の不純物元素を二次イオン質量分析(SIMS)により観測し、THz波透過率との関係を調べた。
2.実験
水熱合成法[1]により成長された大きさ10×10×0.5 mm3の3つのZnO結晶(A, B, Cと呼ぶ)の測定を行った。3つの試料は異なる供給元で成長され、どれも意図的なドーピングは行われていない。THz波時間分解分光法[2]で測定した透過スペクトルを図1(a)に示す。試料Aが高いTHz波透過率をもつのに対し、BとCはほとんどTHz波が透過せず、BとCのキャリア濃度はAより顕著に大きいと考えられる。この3つのZnO結晶に含まれる不純物元素を動的SIMS装置(ULVAC-PHI,ADEPT-1010)を用いて観測した。一次イオンビームは5 kVで加速した酸素イオンを用いた。3回の測定についてイオン照射でできたクレーターの深さと照射時間の関係[図1(b)]からスパッタレートはおよそ1.8 nm/secと見積もられた。
3.結果と考察
図2(a)(b)(c)にSIMSで観測した3つのZnO試料での7Li, 39K, 115Inのカウントレートをそれぞれ測定開始からの時間の関数として示す。7Liと39Kは3つの結晶すべてから検出された。しかし、7LiはTHz波をよく透過する試料Aに比べて試料Bでは多く試料Cでは少なかった。また39Kは試料Aと試料Cでは同程度で試料Bはそれより多かった。このことから、THz波透過率とLiやKの濃度は単調には相関しておらず、当初の予想は否定された。一方、115Inは試料Cのみから検出された。このように、ZnO結晶に含まれる不純物元素の濃度および種類は供給元によって大きく異なることが確認された。THz波透過率だけからZnO中の特定の不純物の濃淡を議論するのは難しいことが分かったが、今後THz波応答と不純物の関係がより詳細に明らかになれば、THz波計測によるZnO結晶の品質管理などの応用につながると期待される。
4.その他・特記事項
参考文献 [1]K. Maeda et al., Semicond. Sci. Tech. 20, S49 (2005). [2]M. Hangyo, Jpn. J. Appl. Phys. 54, 120101 (2015).
謝辞 SIMS測定を行ってくださいました奈良先端科学技術大学院大学の岡島康雄様に感謝いたします。本研究の一部はJSPS科研費JP16K17530の助成を受けて行われました。
5.論文・学会発表 なし
6.関連特許 なし

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