利用報告書

酸素及び一酸化炭素と結合したヘモグロビンの表面物性
眞榮平 愛、蔡 徳七、松本 卓也
大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻

課題番号 :S-16-OS-0042
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :酸素及び一酸化炭素と結合したヘモグロビンの表面物性
Program Title (English) :Dissimilar surface property for hemoglobin combined with O2 and CO
利用者名(日本語) :眞榮平 愛、蔡 徳七、松本 卓也
Username (English) :A. Maehira, D.-C. Che, T. Matsumoto
所属名(日本語) :大阪大学 大学院理学研究科 化学専攻
Affiliation (English) : Dep. of Chem., Grad. School of Sci., Osaka University

1.概要(Summary)
ヘモグロビン(Hb)はタンパク質内に存在するヘムに酸素(O2)や一酸化炭素(CO)と結合し、結合分子に依存した形で局所的な構造変化を引き起こす。この局所的な構造の相違がグロビン鎖を通じてHb粒子に伝播し、タンパク質全体の構造に違いをもたらす。[1] 我々は分子と結合したタンパク質の構造変化により、Hbの表面物性に違いが生じるといいう仮説を考えた。この表面物性の違いは周囲に存在する水和水の結合様式に変化をもたらすことが期待される。そこで本研究では、O2及びCO結合しはHbの表面物性の違いを解明するため、粒子径測定及びζ電位測定を行った。その結果、HbCOはHb O2に比べ水との相互作用が強く水和水がより多く結合していることがわかった。その結果、HbCOはHbO2に比べ構造がより強固に保たれていると考えられる。
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】 ナノ粒子解析装置
【実験方法】 粉末Hbを蒸留水に溶解させ、1mg/mLのHb O2溶液を作製した。この溶液を2つに分け、一方を100%COガスと一晩接触させO2とCOの置換を行い、1mg/mLのHbCO溶液を作製した。
・粒子径測定 ;Hb O2及びHbCO溶液を用いて粒子径の測定を行った。測定温度;25.0℃。
・ζ電位測定;Hb O2及びHbCO溶液を用いてζ電位測定を行った。測定温度;25.0℃、電圧150V。[2]
3.結果と考察(Results and Discussion)
動的光散乱法により溶液中のHbO2及びHbCOの粒子径を測定したところ、HbO2の粒子径は13.6±0.2nm、HbCOの粒子径は14.3±0.3nmであった。即ち、溶液中ではHbCOの方がHbO2に比べ0.7nm粒子径が大きいことがわかる。一方、X線の構造解析では、両者の大きさは同程度であることが知られている。このことから、溶液中でHbCOの粒子径の方が大きく観測されたのは、HbCOの方がHbO2に比べより多くの水和水をまとっていると考えられる。この結果は、HbCOの構造が周囲に存在する水和水により強固に保たれていることを示すものである。
一方、溶液中のHbO2及びHbCOのζ電位をレーザードップラー式電気泳動法により測定した。その原理をFig.1に示す。ζ電位は溶液中に分散している粒子の分散安定性を示す指標として用いられている。

Fig.1 Principle of  potential measurement

溶液中で水和水をまとったHbO2及びHbCOのζ電位を測定したところ、HbO2のζ電位は-11±0.6mV、HbCOのζ電位は-9.0±0.4mVであった。即ち、HbO2の方がHbCOに比べ1.2倍負に帯電しており、生体内での分子間反発力はHbCOに比べ、やや大きいと考えられる。
これらの結果とともに、我々は独自にエタノール沈殿法やAFM観測を行った。その結果、HbCOはO2に比べ分子の構造が安定していることを突き止めた。これはHbCOが周囲に存在する水和水をより多くまとっているためであると結論づけた。この違いは、タンパク質が小さな分子と結合することで局所的な構造変化をもたらし、それがタンパク質全体の表面物性の違いをもたらしたためであると考えられる。
4.その他・特記事項(Others) (参考文献)
本研究はJSPS科研費JP25110014の助成を受けたものです。
[1]M.F. Perutz Ann. Rev. Biochem. (1979)48,327.
[2]K. T. Zerlin et al. Eur. Biophys. J. (2007) 37,1.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) The 16th International Conference on Organized Molecular Films, “Dissimilar surface properties of Hemoglobin combined with O2 and CO” A. Maehira, et al., (2016, July,Finland )
(2)第6回 CSJ化学フェスタ2016 「O2及びCOと結合したヘモグロビンの表面物性の相違」眞榮平 愛 (他4名) :平成28年 11月
(3)第36回 表面科学学術講演会「O2及びCOと結合したヘモグロビンの表面物性の相違」眞榮平 愛 (他4名) :平成28年 11月
6.関連特許(Patent)
なし

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