利用報告書

金属代謝微生物を利用した貴金属・レアメタルナノ粒子の生成
田中 ゆう, 沖部 奈緒子
九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門

課題番号 :S-20-KU-0051
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :金属代謝微生物を利用した貴金属・レアメタルナノ粒子の生成
Program Title (English) :Formation of precious/rare metal nano-particles using metal-metabolizing microorganisms.
利用者名(日本語) :田中 ゆう, 沖部 奈緒子
Username (English) :Y. Tanaka, N. Okibe
所属名(日本語) :九州大学大学院 工学研究院 地球資源システム工学部門
Affiliation (English) :Department of Earth Resources Engineering, Faculty of Engineering, Kyushu University

1.概要(Summary )
都市鉱山廃棄物中には、レアメタルや貴金属等の有価金属が多く残存しており、地上二次資源としての価値を見出すことができる。このような有価金属の二次回収のためには、都市鉱山廃棄物からの有価金属の有効な抽出・回収・リサイクル技術の開発が必要である。本研究では、特に都市鉱山廃棄物サンプルとして、モリブデン(Mo)とコバルト(Co)を高品位で含む石油脱硫用の廃Mo/Co触媒に着目した。まずMoやCoを化学抽出した浸出液から、最終的にはMoイオンをナノ粒子として還元回収することで、リサイクルプロセスに高付加価値を与えることを最終目的とした。
今回はまず基礎実験として、これまでの当研究室における先行研究 [1, 2]において金属還元が確認されている超好酸性鉄還元細菌Acidocella aromatica PFBC株を用い、合成Mo(VI)溶液の微生物学的還元反応に基づくBio-Mo(0)ナノ粒子の生成を試みた。

2.実験(Experimental)
PFBC株の前培養細胞を100 mlのABS基本培地(pH 2.5)に1.0×109 cells/mlにて懸濁し、Mo(VI)を初期濃度50 ppmに調製した。電子供与体(フルクトース)10 mMを加え、100 mlバイアル瓶に詰めた後、30ºCにて1ヶ月嫌気培養した。有菌系で生成した沈殿物を遠心分離で回収、固定(2%パラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒド、1%四酸化オスミウム、エタノール脱水)、酸化プロピレンによる洗浄後、樹脂重合した(Epon 812, DDSA, NMA, DMP-30)。ウルトラミクロトーム(Leica EM UC7)にて 70 µmの樹脂包埋超薄切片を作成し、TEM(透過型電子顕微鏡)で観察した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 反応開始後、1週間前後から有菌系でのみ、全Mo濃度が減少し、同時に実験溶液が青色に変化し始め、時間経過とともに濃くなっていった。その有菌系溶液を遠心分離により固液分離すると、紺色の固体が回収された。無菌系においては、全Mo濃度の減少、また沈殿物は確認できなかったことから、細胞が存在する系においてMoナノ粒子が生成され、細胞内の酵素活性に由来する働きによってナノレベルのMo粒子が生成されることが示唆された。フルクトースのみを添加した無菌系で溶液が少し青く変化したことから、フルクトースもMoを還元することが分かったが、固体粒子を生成することはなく、細胞によるMo還元のサポート程度であることが分かった。
 有菌系で生成した沈殿物についてウルトラミクロトームにて作製した薄片をTEM観察した結果、Fig.1に示すような30 nm程の粒子が観察できた。この粒子の固体XANES分析の結果、この沈殿物に含まれる粒子は5価付近のMo酸化物のナノ粒子であることが分かった。つまり、細胞内に取り込まれたMoが、フルクトースと酵素の働きによってMo(VI)からMo(VI, V)に還元され、ナノ粒子として生成されたと言える。この粒子の元素マッピングにおいて、粒子の存在位置にMoとOが存在していた(Fig.2)。このことからも生成されたMoナノ粒子が酸化物であることが示唆された。

Fig. 1 TEM cross section images of Ac. aromatica PFBC cells and Mo precipitates formed intracellularly under anaerobic condition using 10 mM fructose.

   
Fig. 2 TEM cross section images and elemental mapping of Ac. aromatica PFBC cells and Mo precipitates formed intracellularly under anaerobic condition using 50 mM fructose.

4.その他・特記事項(Others)
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
6.関連特許(Patent) いずれも該当なし。

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