利用報告書

金属結合型アルギナーゼ様酵素DcsBの活性部位構造に関する研究
小田康祐1), 的場康幸2)
1) 広島大学大学院医系科学研究科, 2) 安田女子大学薬学部

課題番号 :S-20-NR-0010
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :金属結合型アルギナーゼ様酵素DcsBの活性部位構造に関する研究
Program Title (English) :Active-site structure of metal-bound form of an arginase-like enzyme DcsB
利用者名(日本語) :小田康祐1), 的場康幸2)
Username (English) :K. Oda1), Y. Matoba2)
所属名(日本語) :1) 広島大学大学院医系科学研究科, 2) 安田女子大学薬学部
Affiliation (English) :1) Graduate School of Biomedical & Health Sciences, Hiroshima University, 2) Faculty of Pharmacy, Yasuda Women’s University

1.概要(Summary )
申請者らはこれまでに,抗結核薬D-サイクロセリン (D-CS) 生産菌であるStreptomyces lavendulaeの染色体DNAから,D-CS生合成に関わると推測される遺伝子クラスターを取得することに成功した。さらに,クローニングした遺伝子クラスターから産生される酵素群のそれぞれが,いかなる反応を触媒するのかを明らかにし,D-CSの生合成経路を解明した。具体的には,DcsAとDcsBがヒドロキシウレアを供給し,DcsEがO-アセチル-L-セリンを供給する。続いて,DcsDの作用によりO-アセチル-L-セリンのアセチル基がヒドロキシウレアに置換されることでO-ウレイド-L-セリンが生じ,DcsCの作用によりD-体に変換された後,ATP依存性酵素DcsGにより環状化されD-CSが合成される。
アルギナーゼは2つの近接したマンガンイオンを活性中心に持つ酵素であり,アルギニンを加水分解してオルニチンとウレアを合成する。一方,DcsBはアルギナーゼとアミノ酸配列上の相同性を有する酵素であるが,基質特異性が異なっており,ヒドロキシアルギニンを加水分解してオルニチンとヒドロキシウレアを合成する。申請者らは最近,DcsBのX線結晶構造解析に成功した(Acta Crystallogr. D Struct. Biol,76, 506-514, 2020)。DcsBの活性中心では, アルギナーゼと同じく2つのMn(II)が近接して存在しているものと考えられるが, 結晶構造から金属イオンの価数を推定することはできない。また,いかにしてDcsBの基質特異性がもたらされるのかについても不明のままである。本研究では,電子スピン共鳴法を用い,スペクトル解析によりマンガン結合型DcsBの活性部位金属およびその構造に関する情報を得ることを目的とした。

2.実験(Experimental)
10.1 mg mL-1 DcsB, 200 mM NaCl, 100 µM MnCl2および1 mM DTTを含む10 mM Tris-HCl (pH 8.0) 緩衝液を, 77 Kで, JES-FA100N ESR spectrometer (JEOL) を用いてESRスペクトルを測定した。また, Mnを含まないコントローストして, 10.1 mg mL-1 DcsBおよび200 mM NaClを含む10 mM Tris-HCl (pH 8.0) 緩衝液を測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
MnCl2を含まない緩衝液の試料はMn由来のシグナルが見られなかった。一方, MnCl2を含む緩衝液の試料では, 弱いながらもピークは観測された。ただし, シグナルはとても弱く, 分裂(ハイパーファイン)は観測されなかった。価数を特定するためには, 感度を上げる必要があり, 分子研などで液体Heを用いた測定を行う必要があると考えられた。

4.その他・特記事項(Others)
本研究は,NAIST ナノテクノロジープラットフォームの支援を受けて行った.本実験では,奈良先端科学技術大学院大学の廣田俊教授に多くの助言をいただいた

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
「なし」

6.関連特許(Patent)
「なし」

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