利用報告書
課題番号 :S-16-KU-0035(NPQ16012)
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :金属配位結合を利用した階層構造の形成と機能
Program Title (English) :Formation and function of hierarchical adlayer using metal organic coordination
利用者名(日本語) :久留巣祐介1), 吉本惣一郎2)
Username (English) :Yuske Kurusu1), Soichiro Yoshimoto2)
所属名(日本語) :1) 熊本大学大学院自然科学研究科, 2) 熊本大学大学院先導機構
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science & Technology,Kumamoto University
2) Priority Organization for Innovation and Excellence,Kumamoto University
1.概要(Summary )
本研究課題では、分子レベルで距離が精密に規定されたπ電子および配位結合の制御によるナノ構造形成やナノ空間の作製に向けて、高配向かつ安定に吸着できる単分子膜を形成するために2-位にチオールを有する2-ピリジンチオール(2-PySH)を骨格に持つチオール分子に着目した。チオール基によるAu-S結合のみならずピリジンのN原子による相互作用の強化が期待されるピラジンあるいはビピリジン部位を介した金属錯体の配位によるナノ構造体を構築し、X線光電子分光(XPS)による検討を行った。
2.実験(Experimental)
Au(111) およびAu(100)電極を水素炎中でアニール処理した後、 2-PySH,2-ピラジンチオール(2-PyzSH),ビピリジンチオール(BPySH)各溶液中へ所定の時間浸漬させることで各チオール単分子膜を作製した。熊本大学にて作製された試料はただちに九州大学伊都キャンパスへ搬送し、島津製AXIS-ULTRA装置の真空チャンバーへ挿入、超高真空環境にて保持された。
3.結果と考察(Results and Discussion)
図1に作製されたBPySH修飾電極のXPスペクトルを示した。N1sスペクトルからはピリジン環のプロトン化に由来すると考えられる402 eV 付近のピークはほとんど観測されなかったが、S2pスペクトルからは168 eV付近にピークが観測された。これは、チオシアヌル酸の単分子膜でもピークが得られており、 C=Sを有する構造を反映していると考えられる。しかし、Au(111)に比べてAu(100)上のピークは非常に小さいことから、チオレートが優勢な状態で吸着していることを示唆している。この結果は、2-PySH,2-PyzSH単分子膜でも同様の傾向を示したが、特に2-PyzSHに関しては、Au(111)とAu(100)面上で顕著な相違が観測された。これら一連の構造体の違いは、ピリジン系チオールの互変異性(チオン体とチオール体)が金単結晶の原子配列によって異なることを示している。この相違は、コバルトポルフィリンの配位にも反映されており、硫酸溶液中でのレドックス挙動が異なった。分子と原子配列のマッチング(吸着の強さ)は、分子配向を決定しているといえる。
4.その他・特記事項(Others)
平成28年4月に発生した熊本地震で研究装置が被災し教育研究が滞る中、物質・材料研究機構はじめ九州大学の分子・物質合成プラットフォームには格別なご支援を頂き、指導学生の修士論文研究を推進することができました。ここに、感謝申し上げます。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1)久留巣 祐介・今村 圭吾・西山 勝彦・吉本惣一郎,電気化学会第84回大会, 平成29年3月26日
6.関連特許(Patent)
なし。







