利用報告書

金属酵素およびそのモデル錯体の電子構造の研究
藤井 浩、難波照代、石水友梨、西川佳那、武藤春香
奈良女子大学

課題番号 :S-18-MS-1016
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :金属酵素およびそのモデル錯体の電子構造の研究
Program Title (English) :Study on the electronic structure of metalloenzymes and their model complexes
利用者名(日本語) :藤井 浩、難波照代、石水友梨、西川佳那、武藤春香
Username (English) :Hiroshi Fujii, Teruyo Namba,Yuri Ishimizu, Kana Nishikawa, Haruka Muto
所属名(日本語) :奈良女子大学
Affiliation (English) :Nara Women’s University

1.概要(Summary )
生体内の金属酵素は、反応中に様々なスピン状態をとりながら機能していることが明らかとなっている。これらの電子構造や反応性を分子レベルで解明することは、酵素の機能がいかにして発現しているかを解明するためには欠かすことができない情報である。本申請者は、これまで酵素反応中間体をそれらと類似するモデル錯体を合成し、その電子構造、反応性を研究し酵素反応との関わりを解明してきた。これらの研究を推進する上で、磁気共鳴法(EPR,NMR)や磁化率測定は電子構造に関してたいへん有用な情報を与える。本課題では、分子科学研究所のEPR装置を用いて、酵素反応中間体の電子構造を精密に解析することを行った。

2.実験(Experimental)
分子科学研究所機器センターにおいて金属酵素およびそれらのモデル錯体のEPRとNMR測定を行った。EPRは、主にBruker EMS Plusを用いて測定した。EPRサンプルは、測定直前に分子科学研究所において調製した。液体ヘリウムを用いて、4KにおけるEPRスペクトルを測定した。NMRは、JEOL-600を用いて測定を行った。水素核とフッ素核の測定を行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
(1)鉄3価塩素ヘム錯体は、通常高スピン状態をとることが知られている。そのため、通常の垂直モードでのEPR測定では非常に強いシグナルを観測できる。一方、平行モードのEPR測定では、シグナルを与えない。今回我々は、鉄3価塩素ヘム錯体の固体状態の測定を注意深く行った。その結果、平行モードで強いEPRシグナルを観測した。この結果、固体状態での分子間の相互作用の存在を示す結果である。また、酵素モデル錯体における分子内配位子の配位についてEPRから検証した。その結果、錯体に導入したチオレート配位子の配位を示す結果が得られた。
(2)酵素反応中間体のモデル錯体のNMR測定を行った。−60度で測定を行った。配位子の電子供与性を変えることにより、モデル錯体の電子構造が大きく変化することが明らかとなった。またこの電子構造変化が、ある電子供与性を境に急激に変化していることが明らかとなった。この他に、フッ素核のNMR測定も行った。F-NMRがヘム錯体の鉄のスピン状態を検出する有効なマーカーになることが明らかとなった。

4.その他・特記事項(Others)
なし

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) Sawako Yokota, and Hiroshi Fujii, J. Am. Chem. Soc. 140,(2018)p.p. 5127-5137.
(2) 西川 佳那、本田 裕樹、藤井 浩
第68回錯体化学討論会 2017.7.28.
(3) 石水 友梨、本田 裕樹、藤井 浩
第51回酸化反応討論会、2018.11.1.

6.関連特許(Patent)
なし

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