利用報告書

金属酵素モデル金属錯体の電子構造の解析
藤井 浩、横田紗和子、難波照代
奈良女子大学

課題番号 :S-16-MS-1087
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :金属酵素モデル金属錯体の電子構造の解析
Program Title (English) :Electronic Structure of Metalloenzyme Model Complexes
利用者名(日本語) :藤井 浩、横田紗和子、難波照代
Username (English) :Hiroshi Fujii, Sawako Yokota, Teruyo Namba
所属名(日本語) :奈良女子大学
Affiliation (English) :Nara Women’s University.

1.概要(Summary )
生体内の金属酵素は、反応中に様々なスピン状態をとりながら機能していることが明らかとなっている。これらの電子構造や反応性を分子レベルで解明することは、酵素の機能がいかにして発現しているかを解明するためには欠かすことができない情報である。本申請者は、これまで酵素反応中間体をそれらと類似するモデル錯体を合成し、その電子構造、反応性を研究し酵素反応との関わりを解明してきた。これらの研究を推進する上で、磁気共鳴法(EPR,NMR)や磁化率測定は電子構造に関してたいへん有用な情報を与える。本課題では、分子科学研究所のEPR装置を用いて、酵素反応中間体の電子構造を精密に解析することを行った。

2.実験(Experimental)
分子科学研究所機器センターにおいてモデル錯体のEPR測定を行った。Bruker EMS Plusを用いて測定した。EPRサンプルは、測定直前に分子科学研究所において調製した。サンプル濃度は、分子科学研究所の分光光度計(日立U-3500)を用いた。液体ヘリウムを用いて、4KにおけるEPRスペクトルを測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
鉄3価ヘム錯体のスピン状態の測定を行った。塩素イオンが配位した錯体は、これまでの報告通り、高スピン状態にあることが確認できた。配位子の配位力を弱くするため、トリフレート錯体とヘキサフルオロフォスフェート錯体の測定を行った。ポルフィリン配位子に電子吸引性基を持たないヘム錯体では、EPRシグナルがg=4〜5付近に観測され、スピン状態が変化したことが明らかとなった。観測されたg値は、ヘム鉄が中間スピン状態に変化していることをしめしていると考えられた。さらにポルフィリンに電子吸引性基をもつヘム錯体の測定を行った。EPRに大きな変化が観測された。これらのスペクトルの解析には、さらに実験を行う必要があると考える。特に磁化率の温度依存性を測定する必要があり、今後の課題である。
一方、次亜塩素酸イオンが結合した錯体の同定をEPR測定から行った。次亜塩素酸イオンを添加するとEPRスペクトルに大きな変化が観測され、次亜塩素酸イオンが金属イオンに配位していることが確かめられた。g値の解析から、次亜塩素酸イオンが強い配位子場をもった配位子であることが示唆された。

4.その他・特記事項(Others)
EPR測定にあたり、補助いただきました分子科学研究所の藤原基康氏、伊木志成子氏、上田 正氏に感謝いたします。また、舟木弓子氏、吉田氏には諸手続でお世話になりました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 石水 友梨、藤井 浩、日本化学会第97回春期年会、2016.3.16
(2) 横田 紗和子、藤井 浩日本化学会第97回春期年会、2016.3.16
(3) 荒木 郁子、倉橋 拓也、藤井 浩、第49回酸化反応討論会、2016.11.12
(4) 福井 奈美、藤井 浩、第49回酸化反応討論会、2016.11.12
(5) Maaya Asaka and Hiroshi Fujii J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 8048-8051.

6.関連特許(Patent)
なし

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