利用報告書
課題番号 :S-20-MS-1037
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :金属錯体の光励起多重項状態の時間分解ESRによる解明
Program Title (English) :A time-resolved EPR study of the photoexcited multiplet states of metal complexes
利用者名(日本語) :浅野素子1) , 下 真2), 安原 凱2)
Username (English) :M. S. Asano1, Makoto Shimo2), Gai Yasuhara2)
所属名(日本語) :1) 群馬大学大学院理工学府, 2)群馬大学理工学部
Affiliation (English) :1) School of Science and Technology, Gunma University, 2) Faculty of Scienc eand Texhnology, School of Science and Technology, Gunma University
1.概要(Summary )
Cu(I)やPt(II)などを中心金属とする光機能性金属錯体は、光励起により安定な励起三重項状態を形成し、室温で強いりん光を発したり、種々の反応前駆体となる。そのため、有機化合物では実現できない多様な光機能性の創出が期待されている。したがってこれらの光機能性金属錯体の励起三重項状態の電子構造・スピン構造を明らかにすることは、より優れた機能性を持つ錯体の設計において極めて重要である。しかし、三重項をはじめとする金属錯体の励起多重項は金属イオンのスピン軌道相互作用が大きく関与し、例えば、三重項副準位の分裂状況も有機化合物とは大きく異なり、測定例も限られる。本研究ではCu(I)ジイミン錯体およびPt(II)シッフ塩基-Bodipy複合体において、光分光測定では困難な励起三重項状態の副準位構造の観測を時間分解(TR)ESR法を適用し試みた。特に通常のXバンド測定に加えて、Qバンド測定を併用し、有機化合物とは異なって大きなゼロ磁場分裂をもつ錯体における電子・スピン構造の解明を目指した。
2.実験(Experimental)
ESR 分光計はBruker E680 を用い、励起光はSpectra Physics社製LAB-170-50-THGBU-Wで励起したPrimoScan ULD-240UVS1-Wによる出力、415 nm ~ 560 nmを試料に応じて用いた。温度はクライオスタットにて12Kに制御した。X band (マイクロ波 9.6 GHz )測定では誘電体キャビティを用いた。Q band (マイクロ波 34 GHz) の測定ではCWモード共振器を使用した。測定は、マクロ波はCWモードで用いて、光励起によるマイクロ波の試料による吸収・発光を時間分解にて検出した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
これまでXバンドでTREPR観測されたある種のCu(I)錯体において、Qバンドスペクトルを観測することができ、ゼロ磁場分裂の大きさのおおよそがわかった。現在、このスペクトルをシミュレーション解析中である。しかし、観測できたのは最も強いXバンドTRESR信号を
与える試料についてのみであり、種々の測定の感度の向上等が必要である。
一方、Pt(II)錯体について、Bodipy単体とは項間交差の選択則が置換位置に依存して大きく異なることが明らかとなった。りん光特性と合わせて機構を解明する。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は一部、科学研究費補助金基盤C(17K05801, 20K05679)によって支援された。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 浅野 素子1*・小堀 健1・末延 知義2・花田 啓明3・中川 達央3 不対電子を含む系の擬三重項―三重項分子内エネルギー移動速度の加速と超交換相互作用電子スピンサイエンス学会2020, 令和2年11月14日
(2)小堀健1・竹田浩之1・浅野素子1・Zhijia Wang2・Jianzhang Zhao2, Bodipyを架橋したPt(Ⅱ)錯体の分子内エネルギー移動と近赤外発光, 日本化学会関東支部群馬地区研究交流発表会, 令和2年12月5日
(3) Asano, Motoko S.1*; Kobori, Ken1; Suenobu, T. 2; Hanada, H. 3; Nagawa T. 3, Acceleration of Pseudo Triplet-Triplet Energy Transfer Rates in Molecular Systems Involving an Unpaired Electron, KASC6th(6th Kanto Area Spin Chemistry Meeting), 令和2年12月12日
6.関連特許(Patent)
なし