利用報告書

金属錯体の自己組織化単分子膜を利用した有機トランジスタの高性能化
田原圭志朗1)
1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科

課題番号 :S-20-NR-0015
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :金属錯体の自己組織化単分子膜を利用した有機トランジスタの高性能化
Program Title (English) :Utilization of self-assembled monolayers of metal complexes toward improved organic transistor performances
利用者名(日本語) :田原圭志朗1)
Username (English) :K. Tahara1
所属名(日本語) :1) 兵庫県立大学 大学院物質理学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Material Science, University of Hyogo

1.概要(Summary )
有機エレクトロニクス分野では、有機半導体が有機分子溶液の塗布によって容易に形成でき、エネルギー、大面積化、コストの点でメリットが大きいことから、これを利用したデバイス開発が盛んに行われている。本研究は、金属錯体を有機薄膜電界効果トランジスタ(OFET)の材料として応用することを目的としている。昨年度までに、新たな有機半導体材料として、導電性骨格を組み込んだ新規白金錯体を開発し、本事業の支援を受けて、その同定を行っていた。今年度は、この白金錯体を用いて、ゲート絶縁膜と有機半導体層の界面に挿入する自己組織化単分子膜(SAM)を作製し、OFETへの応用を検討した。

2.実験(Experimental)
① X線光電子分光分析装置(XPS) 酸化膜付シリコン基板上に作製した白金錯体SAMの評価を行った。
② MALDI-Spiral-TOF-MS, RSI-TOF-MS 新規SAM構成分子の同定のため、質量分析を実施した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
今回の白金錯体の分子設計として、長期に渡る大気安定性と世界トップレベルの移動度を兼ね備えたbenzothienobenzothiophene (BTBT)骨格を、導電性部位として配位子に導入している。また、単座配位子のジメチルスルホキシド(DMSO)を補助配位子に用いている。この錯体の溶液にSiO2熱酸化膜付きシリコン基板を室温で24時間浸漬し、超音波洗浄した。この処理基板を光電子分光法によって同定したところ、白金の4f由来のピークを確認した。白金中心が置換活性であり、配位子交換反応がSiO2表面で進行し、ゲート絶縁膜が修飾されたと考えられる。原子間力顕微鏡でも、錯体由来のSAMが形成されていることを確認している。さらに、このSAMが有機半導体C8-BTBTの真空蒸着のための良い足場となり、有機トランジスタを作製できた。一般的に用いられるシランカップリング剤によってSAM処理したトランジスタに比べ、移動度、閾値の点で性能が向上した。SiO2上のSAMは比較的疎に固定化されており、SiO2上の第一層は、SAMとC8-BTBTが噛み合った構造をしていると考えられる。SAMの電子ドナー性に加え、BTBT骨格が共通するSAMと有機半導体の組み合わせが、電気伝導度の向上に寄与したと考えられる。1,2)
また、BTBTにピリジル基を導入した新規配位子と、DMSOを補助配位子とした新規白金錯体を合成し質量分析で同定できた。今後、ゲート絶縁膜修飾に応用し、SAMのシリーズとトランジスタ動作の相関を明らかにする。

4.その他・特記事項(Others)
NAISTの技術職員西川嘉子氏および岡島康雄氏に御担当いただいた。料金については、科研費基盤(C) JP16H06514の支援を受けた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) K. Tahara*, Y. Ashihara, T. Ikeda, T. Kadoya, J. Fujisawa, Y. Ozawa, H. Tajima, N. Toyoda, Y. Haruyama and M. Abe*, Inorg. Chem. 2020, 59, 17945-17957. [Supplementary Journal Cover]
(2) 田原圭志朗,第8回次世代先端デバイス研究会/第56回SPring-8先端利用技術ワークショップ, 2021年3月, 令和2年3月3日. (招待講演)
他2件の口頭発表.

6.関連特許(Patent)
なし

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