利用報告書

開裂活性分子の加熱によるスピン生成
燒山佑美1), 関 涼太郎1)(1) 大阪大学大学院工学研究科)

課題番号 :S-20-MS-1046
利用形態 :施設利用
利用課題名(日本語) :開裂活性分子の加熱によるスピン生成
Program Title (English) :Spin generation by heat-mediated homolysis of C-C bond
利用者名(日本語) :燒山佑美1), 関 涼太郎1)
Username (English) :Y. Yakiyama1), R. Seki1)
所属名(日本語) :1) 大阪大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Engineering、Osaka University

1.概要(Summary )
 本研究では「ねじれX型」インダンジオン二量体に着目し、その4-ピリジル基導入体 (4PID) がゲスト分子の旧脱着により相互変換可能な2種類の分子性結晶を与えることを見いだしている。また、インダンジオン二量体は加熱・冷却により可逆な結合開裂・再結合を示すC-C結合を有している。これを利用した物性発現をめざし、これまで固体状態における結合開裂-再結合メカニズムについて知見を得るべく高温条件でのESR測定を行ってきた。その結果、4PID (分解点: 523 K) が脱気封管状態・499 Kで急激なシグナル増強を示すとともに、一部分解・昇華を通じて無水フタル酸を与えることが前回までの実験で明らかとなった。そこで本年度は窒素充填状態での加熱およびその時間依存性について検討を行うとともに、4PID以外のインダンジオン誘導体についても加熱による構造変化について評価を行った。

2.実験(Experimental)
測定にあたっては、500 K までの昇温が可能なBruker製EMX Plusを利用した。5 mm ESR管に4PIDの脱溶媒結晶を窒素雰囲気下封管した。これを室温で測定後、418 Kに昇温し、そこから20 Kずつ478 K まで昇温させた。以降は温度を保ち、時間経過によるシグナル変化を確認した。なお、固体サンプルであることから、加熱による結合開裂は結晶中において一様に生じない可能性があるため、各温度で10分に1回の頻度で3回ずつ測定を行った。その後は冷却過程としてESR強度を確認しながら20 Kずつ温度を下げて室温まで冷却し、シグナル強度の変化を確認した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
 前回同様、室温から478 KまではESR強度の変化はほとんど見られなかったが、478 Kに昇温後、徐々にシグナル強度増加が観測された。その後1.5時間加熱を続けたものに関しては、室温への冷却によりシグナル強度が0となったが、3時間加熱を続けたものに関しては室温に冷却後、シグナル強度が若干減少したのみであった。一方、これら両プロセスでシグナル位置のシフトや、新たなシグナルの出現は観測されなかったことから、この現象は加熱による分子内C-C結合の開裂・再結合によるものであり、加熱時間に応じた残存シグナルの有無はサンプルの結晶性 (格子欠陥の数) にもとづく再結合過程の容易さによるものと考えられた。このことは分子内C-C結合現象が結晶中の分子パッキングに影響されることを表しており、結晶構造に依存してC-C結合の開裂温度が変化することを示唆している。引き続き結晶構造の違いが及ぼすC-C結合様式の変化について測定・考察を行う予定である。

4.その他・特記事項(Others)
 本実験の遂行にあたり、分子科学研究所 機器センターの藤原基靖 博士、伊木志成子 氏より数多くのサポートを頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 燒山 佑美, 若い世代の特別講演会, 日本化学会第101春季年会, 令和3年3月21日

6.関連特許(Patent)
なし

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