利用報告書

阻害剤存在下でのアミロイドβ凝集体形態の経時的観察
田口莉帆, 上井幸司
1) 室蘭工業大学大学院工学研究科

課題番号 :S-16-CT-0091
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :阻害剤存在下でのアミロイドβ凝集体形態の経時的観察
Program Title (English) :Observation of time-dependent changes of amyloid-β morphology in the presence of inhibitors
利用者名(日本語) :田口莉帆, 上井幸司
Username (English) :R. Taguchi, K. Uwai
所属名(日本語) :1) 室蘭工業大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :1) Graduate School of Engineering, Muroran Institute of Technology

1.概要(Summary)
カフェイン酸誘導体によるアルツハイマー病の病因の1つとされる脳内でのアミロイドβ(Aβ)の凝集・蓄積阻害のメカニズムを解明するために、我々はこれまでにその効果を経時的にチオフラビン(ThT)法、円二色性分散スペクトルなどにより検討してきた。本研究では、合成した阻害剤存在/非存在下での凝集過程における凝集体・線維の形態の変化をTEMあるいはAFMにより経時的に観察することで、阻害剤が凝集のどの段階を阻害しているのかを検討した。

2.実験(Experimental)
Aβ を 300 µM になるように 6 mM NaOH で溶解した溶液をストック溶液として用いた. カフェイン酸および合成したロスマリン酸誘導体の 0, 2.74, 57.0, 120 µM のAβ溶液 (30 µM Aβ, 1xPBS) を, 30 µLずつ分注した. その後, 37 oC で 24 h 加温し, 測定まで氷冷下保存した. サンプル溶液を支持膜付グリット (エラスチックカーボン ELS-C10 STEM Cu100P グリッド仕様, 応研商事) に 3 min 乗せ,さらに2 % タングステン酸 3 µLを 3 min 乗せ, TEM (H-7600, Hitachi) により測定を行った.

3.結果と考察(Results and Discussion)
ロスマリン酸とカフェイン酸誘導体存在下, Aβ凝集過程での凝集体の形態を TEM により比較検討した.
ThT 法での EC50 値の濃度のロスマリン酸 (2.74 µM) または,カフェイン酸誘導体(57.0 µM) 存在下および, Aβ濃度に対して 4 倍の濃度のロスマリン酸 (120 µM) または, カフェイン酸誘導体(120 µM) 存在下での Aβモノマー溶液の 24 h 後の TEM 画像を測定した.
阻害剤非存在下では,太い線維が, 層状に観察された. これに対してロスマリン酸(2.74 µM)存在下, Aβ凝集体の線維量は減少し,長い線維が観察された. ところが, カフェイン酸誘導体(57.0 µM)存在下, Aβ凝集体は およそ偏平で,比較的短い長さの線維が観察された.
また, Aβ濃度に対して 4 倍の濃度(120 µM)の誘導体を添加したときの TEM 画像には誘導体間で顕著な違いが観察された. ロスマリン酸存在下では,円形の核が観察されたが, 非常に短く小さな線維の集合であると考えられる. ここではコントロールで観察されたような線維は見られなかった. また, 同濃度のカフェイン酸誘導体存在下では,非常に短い線維が観察された. 円形状の核が, カフェイン酸誘導体で観察された短い線維の集合であるとすれば, カフェイン酸誘導体はロスマリン酸よりも Aβ凝集段階の初期を阻害している可能性が示唆された.

4.その他・特記事項(Others)
本実験を行うにあたり、千歳科学技術大学フォトニクス研究所 河野敬一先生、山﨑郁乃技術員には多大なる支援をいただきました。御礼申し上げます。
また、本研究に関する競争的資金として,科学研究費補助金(基盤研究C)「シソ科植物の成分に基づく新規アミロイドβ凝集阻害物質の開発」の援助を受けました。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし

6.関連特許(Patent)
なし

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