利用報告書
課題番号 :S-16-NM-0104
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :阻害物質によるAβタンパク凝集機構の円二色性スペクトルを用いたコンフォメーションの解析
Program Title (English) :Conformational analyses of amyloid-beta aggregates in the presence of inhibitors using circular dichroism spectroscopy
利用者名(日本語) :上井 幸司
Username (English) :Koji Uwai
所属名(日本語) :室蘭工業大学大学院工業大学大学院工学研究科環境創生工学系専攻
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering, Muroran Institute of Technology
1.概要(Summary)
アルツハイマー病 (AD) は学習能力や記憶力の低下などの症状を伴い, 最終的に意思疎通も困難になる高齢者に見られる神経変性疾患である. AD患者の脳内ではアミロイド (A) タンパクが凝集し老人斑が形成される. これが神経細胞死やシナプスの脱落を引き起こし, ADの病因となると言われているため, A凝集阻害物質が新規AD予防・治療薬の開発に繋がると期待されている. ところが, Aの凝集阻害機構については未だに不明な点が多い.
これまでに我々は, 強力なA凝集阻害活性を示すシソ科香辛料サボリーの主要な活性成分がロスマリン酸であることを明らかにし,合成したその誘導体をツールとして, A凝集阻害活性の評価とドッキング計算から得られる構造と活性の相関性に基づき, A凝集阻害機構の解明を試みている.その一環として,本研究では阻害剤存在下あるいは非存在下でのA凝集過程における二次構造変化を円二色性スペクトルの経時的変化から検討した.
2.実験(Experimental)
【利用した主な装置】
円二色性分散計 日本分光J-725
【実験方法】
PBS中A(終濃度: 30 M), 阻害剤(①Control, ②RA: 2.74 M, ③RA: 20.3 M, ④C6: 5.13 M, ⑤C6: 57.0 M)を含む反応溶液 (12 µL) を37℃で0, 0.25, 0.5, 1, 2, 4, 8, 16, 24, 48, 72 hインキュベートした. 得られた反応溶液を10 µLを光路長 1 mmのマイクロサンプリングディスク (日本分光) に移し,25℃, 185-260 nmの波長範囲でCDスペクトルを測定した.
3.結果と考察 (Results and Discussion)
各種阻害剤存在下でのA凝集過程における二次構造変化をCDスペクトルにより観察した.
コントロール溶液では,インキュベート時間の増加に伴いランダムコイル→ —ヘリックス → −シート構造変化が観測された.
これに対して,ロスマリン酸存在下でのCDスペクトルの変化から,コントロールと比較して−シート構造量の減少が観測された
さらに,C6存在下でのCDスペクトルの変化から,−シート構造形成の遅延が観測された
以上の結果は,ロスマリン酸誘導体の化学構造の違いによりA凝集阻害メカニズムが異なることを示唆している.今後,他の分析法によるさらなる検討により,効果的なA凝集阻害物質,さらにはAD予防・治療薬の開発へとつながることが期待される.
4.その他・特記事項(Others)
本研究に関する競争的資金として,科学研究費補助金
(基盤研究C)シソ科植物の成分に基づく新規アミロイド凝集阻害物質の開発とその分子機構,ナノテクノロジープラットフォーム 平成28年度 研究設備の試行的利用(NPS16090)の援助を受けました.
また,本研究を遂行するにあたり,物質・材料研究機構 分子・物質合成プラットフォーム 箕輪貴司先生ならびに 李潔先生に装置利用に関し多大なご支援をいただきました.御礼申し上げます.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 田口莉帆, 高橋倫人, 畑山晃輝, 太田公規, 橋友理香, 関千草, 中野博人, 遠藤泰之, 徳樂清孝, 上井幸司,”メカニズムに着目したカフェイン酸誘導体のアミロイドβ凝集阻害活性評価” 第34回メディシナルケミストリーシンポジウム, つくば,2016年11月
6.関連特許(Patent)
なし







