利用報告書
課題番号 :S-17-MS-0003
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :電子スピン共鳴によるマルチドメインタンパク質の構造変化解析
Program Title (English) :Structural analysis of multi-domain proteins by ESR
利用者名(日本語) :平松 蒼野1), 斉尾 智英1)
Username (English) :S. Hiramatsu1), T. Saio1)
所属名(日本語) :1) 北海道大学 大学院理学研究院 化学部門
Affiliation (English) :1) Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University
1.概要(Summary )
タンパク質は生体内で柔軟に立体構造を変化させながらその機能を発揮する.そのため,タンパク質の機能やそのメカニズを明らかにするためには,タンパク質の静的な立体構造ばかりではなく,立体構造の変化についての解析が重要となる.本プロジェクトでは,ランタノイドイオンを用いたESRによって,タンパク質の任意の2点間の距離を正確に計測し,リガンド結合や翻訳後修飾などに誘導されるタンパク質の立体構造変化を詳細に解析する手法の応用と確立を目指す.今年度は,3つのドメインから構成される大腸菌のタンパク質MurDをモデルタンパク質とした手法確立を重点的に進めた.ここでは,MurDのdomain 2, domain 3のそれぞれに1箇所ずつに常磁性ランタノイドイオン,特にESRでの距離測定に有効であるガドリニウム (III) イオン (Gd3+) を固定し,MurDへのリガンド結合に伴う立体構造変化をGd3+間の距離の変化として検出することを目指した.
2.実験(Experimental)
実験には電子スピン共鳴装置 (Bruker社製・E-680) を用い,pulsed electron-electron double resonance (PELDOR) 測定によってGd3+間の距離を測定した.制度の高い距離測定を行うためには,タンパク質上にランタノイドイオンが強固に固定されている必要があるが,本プロジェクトでは,2点のジスルフィド結合によって固定するランタノイド結合タグ (CLaNP-5) を用いることによってランタノイドイオンの強固な固定を可能にした (Saio et al. 2015).これまでの共同研究によって,MurDの同一ドメイン上の2箇所に導入したGd3+間の距離が高精度で測定できることが確認できている.また,MurD domain 2, domain 3のそれぞれ1箇所ずつにGd3+を固定し,ADPや阻害剤の結合による立体構造変化を検出することにも成功している.今期は,より高分解能・高精度の解析の実現を目指し,実験条件の検討を行った.特に,スピンエコーでのパルス間隔 (τ) を延長した条件での測定を行った.
3.結果と考察(Results and Discussion)
実験条件の検討の結果,τを延長した条件では,想定されたように感度が低下するものの,距離-分布プロットにおける距離の分解能が向上した.ここでは,Gd3+の固定場所を変えた複数のサンプルに対する測定を行ったが,いずれのサンプルにおいても距離-分布プロットにおけるピークの半値幅が減少し,分解能が向上していることが示された.感度の低下に対処するため,現在は積算時間の延長やパルスの周波数の最適化など,実験条件のさらなる最適化を進めている.
4.その他・特記事項(Others)
[Reference] Saio T. et al. (2015). Ligand-driven conformational changes of MurD visualized by paramagnetic NMR. Scientific Reports, 5, 16685.
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 平松 蒼野,齋尾 智英,浅田 瑞枝,瀧下 俊平,中村 敏和,石森 浩一郎.第17回 日本蛋白質科学会年会,2017年6月20-22日
(2) Tomohide Saio, Soya Hiramatsu, Mizue Asada, Shunpei Takishita, Toshikazu Nakamura, Koichiro Ishimori.第17回 日本蛋白質科学会年会,2017年6月20-22日
6.関連特許(Patent)
なし.