利用報告書

非弾性散乱トンネル電流による有機伝導体単結晶表面の局所励起
田中 大輔1)
1) 関西学院大学 理工学部

課題番号 :S-16-MS-0018
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :非弾性散乱トンネル電流による有機伝導体単結晶表面の局所励起
Program Title (English) :
利用者名(日本語) :田中 大輔1)
Username (English) :D. Tanaka1),
所属名(日本語) :1) 関西学院大学 理工学部
Affiliation (English) :1) School of Science and Technology Kwansei Gakuin University

1.概要(Summary )
本研究では分子性相安定材料の電子状態を、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて単一分子レベルで操作・評価し、室温で駆動する超高密度単分子メモリ素子を実現することを目指した。実際に用いた物質系は、ヘキサ字トリフェニレン(HAT)誘導体を用いた分子性結晶とその電荷移動(CT)錯体単結晶である。それぞれの分子の電子状態をSTMで観測することを目指した。

2.実験(Experimental)
2×10-4 M HAT(CN)3(OC15H29)3の1,2,4-トリクロロベンゼン溶液を調製し、スコッチテープで剥離したHOPG上に滴下することで、固液界面にHAT(CN)3(OC15H31)3の単分子膜を作成した。室温大気下にてPt / Ir = 80 / 20 探針を用いたAgilent社5100AFM/SPMのSTMモードにより、得られた単分子膜の観測を行った。また、ドナー分子としてヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)を、アクセプター分子にHAT(CN)6を用いた新規電荷移動錯体の拡散反射紫外可視吸収スペクトル測定を島津UV-3600を用いて行った。

3.結果と考察(Results and Discussion)
電荷移動錯体は電気伝導性を始めとする様々な電子物性を示すため、機能材料として幅広く研究がなされてきた。本研究では、ドナー分子としてヘキサヒドロキシトリフェニレン(HHTP)を、アクセプター分子にヘキサアザトリフェニレン(HAT)誘導体を用いた新規電荷移動錯体の合成を行った。得られた電荷移動錯体は、HAT誘導体に導入された置換基の種類によって結晶の色に違いが見られた。各種電荷移動錯体はIR、固体拡散反射紫外可視吸収スペクトル、単結晶X線回折測定で評価した。構造解析の結果、HHTPとHAT(CN)6が交互に積層したカラムナー構造を取ることが明らかとなった。これらの結果から、固体拡散反射紫外可視吸収スペクトルに見られる強い可視光の吸収は、部分電荷移動錯体のCT吸収帯に対応することが明らかとなった。
一方、本研究で得られたCT錯体は電気伝導性を示さない絶縁体分子であった。STMで観測を行うため、アルキル長鎖を導入したHAT(CN)3(OC15H31)3を熱分解高配向グラファイト(HOPG)基板上で単分子膜として吸着させて、観察を行った。この分子は、3本のアルキル長鎖を有しており、グラファイト表面と強く吸着することが期待される。測定では1,2,4-トリクロロベンゼン溶液をHOPG上に滴下し、固液界面を室温大気下で観測した。我々が所有するサンプルスキャナ型のMultimode8では、分子がHOPG上でカゴメ格子型に配列することが確認されたが、正岡准教授が所有するAgilent社5100AFM/SPMはチップスキャナ型のSTMでは、分子像を得ることができなかった。

4.その他・特記事項(Others)
本研究課題遂行には分子科学研究所正岡重行准教授と近藤美欧助教に大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 中島謙介、田中大輔 日本化学会第97回春季年会, 平成28年3月17日
(2) 小野敏典、塩尻南央、檜本晃、猪瀬朋子、雲林院宏、田中大輔 日本化学会第97回春季年会, 平成28年3月17日

6.関連特許(Patent)
なし。

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