利用報告書
課題番号 :S-20-NU-0024
利用形態 :技術代行
利用課題名(日本語) :飛翔体搭載を目指した薄膜光学素子の開発
Program Title (English) :Development of optical thin film devices for flying objects
利用者名(日本語) :三石郁之1), 柏倉一斗2), 丹羽由実1), 小川ともよ1)
Username (English) :I. Mitsuishi1), K. Kashiwakura2), Y. Niwa1), T. Ogawa1),
所属名(日本語) :1) 名古屋大学大学院理学研究科, 2) 名古屋大学理学部
Affiliation (English) :1) Graduate School of Science, Nagoya Univ.,2) Faculty of Science, Nagoya Univ.
1.概要(Summary )
薄膜光学素子は宇宙分野でもニーズが高い。例えば地球大気による吸収のため、ロケットや人工衛星のような飛翔体による観測が必須となる X 線天文学分野においても、受動型熱制御素子、可視光・汚染物質防護や気密入射窓等の目的で良く用いられている。この飛翔体搭載用薄膜光学素子については、上記のような機能の他に、過酷な宇宙環境にも耐えることが同時に要求される。この宇宙環境耐性評価項目としては、ランダム振動や音響試験などの耐圧性、原子状酸素・紫外線照射試験等が挙げられる。
2.実験(Experimental)
上述の項目のうち、特に重要な耐圧性評価試験を実施し、試験前後の素子表面の状態を走査型電子顕微鏡 (JEOL社製JSM-7500F) を用いて調査した。本年度は、素子材質としてはグラフェンを主に採用した。例えば静加圧試験については、単層 / 2 層グラフェンや 30-60 層の超薄膜グラファイト素子に対し、0.1, 0.3, 0.5, 0.7, 1.0 atm の加圧を 60 秒間かけ、その表面状態の変化を調べた。なお、素子のフリースタンディング部の直径は単層 / 2 層グラフェンは 10 µm、超薄膜グラファイトは 70 µm である。
3.結果と考察(Results and Discussion)
静加圧試験の結果、単層素子は 0.3, 0.5 atm の加圧後に複数のフリースタンディンググラフェンに破れが生じた (図 1 参照)。一方、2 層グラフェンについては 1.0 atm 加圧後も破れが生じず、さらには 1.0 atm 下にて 48 hrs もの耐久試験にも耐えた。また、超薄膜グラファイトについては 0.7 atm 加圧後に破れが生じた。今後は、個体差の原因追求や、異なる径に対しての評価も実施予定である。
Fig.1: SEM images before/after static pressure tests for a free-standing single-layer graphene with a diameter of 10 µm.
4.その他・特記事項(Others)
本研究を進めるにあたり、フレキシブルな研究環境を提供していただいた坂口佳充先生、そして多くのサンプルに対し精確かつ迅速に観察を行い、結果に対しても有用な考察をいただいた林育生氏に厚く御礼申し上げます。また、本研究は日本学術振興会科学研究費助成事業 (20K20920) や小笠原科学技術振興財団一般研究助成事業、近藤記念財団研究助成事業による支援のもとで行われました。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 三石郁之他, ”超薄膜グラフェンを用いた飛翔体搭載用軟 X 線光学素子の開発 (3)”, 日本天文学会 2020 年秋季年会,2020 年 9 月 8 日.
(2) 三石郁之他, ”グラフェン超薄膜を用いた高機能汎用型光学素子の開発”, 日本天文学会 2021 年春季年会,2021 年 3 月 16 日.
6.関連特許(Patent)
なし。