利用報告書

高分子保護金属クラスターの電子状態に関する測定
櫻井英博, Setsiri Haesuwannakij、毛利早智、野村圭吾
大阪大学大学院工学研究科

課題番号 :S-15-MS-1074
利用形態 :機器利用
利用課題名(日本語) :高分子保護金属クラスターの電子状態に関する測定
Program Title (English) :Measurement of electronic state of polymer-stabilized metal clusters
利用者名(日本語) :櫻井英博, Setsiri Haesuwannakij、毛利早智、野村圭吾
Username (English) :H. Sakurai, S. Haesuwannnakij, S. Mouri, K. Nomura
所属名(日本語) :大阪大学大学院工学研究科
Affiliation (English) :Graduate School of Engineering, Osaka University

1.概要(Summary )
 我々の研究室では、高分子マトリクスによって保護されたコロイド状金属ナノクラスターが擬均一系触媒として多くの反応に対して高活性を示すことを見出している。最近ではその触媒活性は、高分子マトリクスとの相互作用によって大きく変化し、その主たる要因が、マトリクスと金属表面の界面における電子状態の変化に起因されることがわかってきた。金属表面の電子状態を直接測定する手法としてX線光電子分光(XPS)は極めて有力な手法であり、例えばポリビニルピロリドン(PVP)保護金ナノクラスターの触媒活性とXPSのデータは良い相関を示すことは、我々のこれまでの研究でわかっている。そこで今回は同様の測定をPVP以外のマトリクスの系やAu/Pd合金系で実施する。
2.実験(Experimental)
 測定は、ナノプラットフォームで公開されている、機器センター所有のXPS(ESCALAB 220iXL)を使用した。各種有機(高)分子保護金属クラスターはそのまま保護された状態で測定に用いた。分析は高真空下(5×10-8 Torr)、線源はAl Kα(1486.7 eV),15kV, 34 mAで用いた。C 1sのピーク(284.6)を内部標準として解析を行った。
3.結果と考察(Results and Discussion)
(1)PVP保護Au/Pd合金ナノクラスターの電子状態解析
 合金ナノクラスターはそれぞれ単独の金属とは異なる触媒活性を示すことから注目を集めているが、単独金属クラスターと異なり、これまでサイズ選択的調製法が開発されていなかったため、そのサイズ効果についての研究例はほとんどなかった。今回我々は1.2-8 nmのスケールでサイズ選択的にAu/Pd:PVPクラスターを調製する手法を開発したので、その電子状態解析を行った。その結果、ほぼすべてのサイズでPVPマトリクスの影響による低エネルギーシフトが観測され、Au, Pdともに表面がやや負電荷を帯びていることが確認された。さらにAuに関しては、芳香族塩化物の脱塩素水素化反応の触媒活性と電子状態との相関が観測され、より低エネルギー状態の金表面を持つクラスターが高い触媒活性を示すことがわかった。一方、Pdに関しても、おおよそ同様な傾向が観測できたが、若干の違いも観測された。これは合金状態の違いによるものと考えられ、現在他のデータ(XRDなど)と組み合わせて、解析を進めている。
(2)水酸化フラーレン保護金ナノクラスターの電子状態解析
フラーレン(C60)を高度に水酸化した誘導体は水溶性を獲得し、ユニークな性質が発現する。当研究室では水酸化フラーレンC60(OH)36が金クラスターの良い保護分子となり、またPVP保護クラスターとは異なる触媒活性を示すことを見出しており、今回その表面電子状態解析を行った。その結果、このクラスターは表面がやや正に帯電していることが明らかとなった。一方、XANESの解析では粒子全体はPVP保護体と同様やや負に帯電していることがわかっており、この電子分布の違いが触媒活性の違いに反映していることがわかった。
4.その他・特記事項(Others)
なし
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 毛利 早智, Haesuwannakij Setsiri, 櫻井 英博,”ポリビニルピロリドン保護Au/Pd 合金ナノ粒子のサイズ選択的調製”,日本化学会第96春季年会, 京都, 2016年3月24日.
(2) 佐藤 希, 小久保 研, 櫻井英博, “水酸化フラーレン保護金ナノ粒子の合成”, 日本化学会第96春季年会, 京都, 2016年3月24日.
6.関連特許(Patent)
なし

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