利用報告書

高濃度変性剤中の蛋白質残像構造の解析
桑島邦博(東京大学・大学院理学系研究科)

課題番号 :S-20-MS-0027
利用形態 :協力研究
利用課題名(日本語) :高濃度変性剤中の蛋白質残像構造の解析
Program Title (English) :Studies on residual structures of proteins in concentrated denaturants
利用者名(日本語) :桑島 邦博
Username (English) :K. Kuwajima
所属名(日本語) :東京大学・大学院理学系研究科
Affiliation (English) :School of Science, the University of Tokyo

1.概要(Summary )
 2019年度の協力研究を継続し,高濃度変性剤中の残存構造の存在が,ユビキチン以外の構造クラスの球状蛋白質においても見出される一般的な現象であるかを明らかにすることを目的とした。そのため,全α型蛋白質である,プロテインAのBドメイン(BDPA)について,6 M 塩化グアニジニウム(GdmCl)中における残存構造を水素/重水(H/D)素交換法と高分解能NMRを用いて調べた。その結果,BDPAにおいても,天然構造中αヘリックスである領域に,残存構造の存在することが分かった。

2.実験(Experimental)
 分子科学研究所・機器センターに設置されている1H 800-MHz NMR装置(Bruker, Avance800)と円二色性(CD)分散計(JASCO J-1500)を用いた。
 15N標識BDPA(0.3 mM)のH/D交換反応を6 M GdmCl(90% D2O/10% H2O)中,pH* 3.4, 15.0°Cにて実施した(pH*はpHメータ読みを示す)。反応開始後300分までの間,任意の時間に反応溶液(1.0 mL)を採取し,液体窒素で反応停止後NMR測定まで凍結保存(−85°C)した。凍結試料を溶解後,スピン脱塩カラム(ZebaTM Spin Desalting Column 89891)を用いて,溶媒を水素交換停止液(94.5% (v/v) DMSO-d6/5% D2O/0.5% DCA-d2, pH* 5.4)に交換し,NMR(1H–15N HSQC)スペクトルを測定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 BDPAの59個のペプチドNHプロトンの内,29個の2D NMRスペクトル・シグナルの帰属を終え,これらのH/D交換反応を追跡した。今後,更に帰属を進め,実質上全てのNH基のH/D交換反応を明らかにしたい。
 1H–15N HSQCスペクトル・ピーク強度のH/D交換反応時間依存性から交換反応曲線を求めた。全ての交換反応は単一指数関数的であった。観測された速度定数kobsで,そのNH基に固有の化学交換速度定数kintを割って得られる,保護因子P (=kint/kobs)を求めた。P値は,天然構造中αヘリックスにある領域では,6 M GdmCl中でも,P = 2~6の残基が多く,残存構造の存在を示している。
 残存構造のGdmCl濃度依存性を調べるため,CDスペクトルを用いて,BDPAのGdmClによるアンフォールディング転移曲線を求めた。BDPAは,GdmCl 5 M以上で,十分にアンフォールドした(U)状態にあるが,U状態の残存構造のGdmCl依存性を調べるためには,天然構造を不安定化したBDPA変異体が必要であることも分かった。

4.その他・特記事項(Others)
共同研究者:加藤晃一 教授(生命創成探究センター),谷中冴子 助教(生命創成探究センター)矢木真穂 助教(生命創成探究センター)。CD装置使用に当たっては,賣市幹大 氏(機器センター)の技術支援を頂いた。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) M. Yagi-Utsumi, M.S. Chandak, S. Yanaka, M. Hiranyakorn, T. Nakamura, K. Kato and K. Kuwajima, Biophys. J., Vol. 119(2020)p.p.2029-2038.
(2) K. Kuwajima, M. Yagi-Utsumi, S. Yanaka and K. Kato, 第58回 日本生物物理学会 シンポジウム “Biophysical studies on protein folding/misfolding and aggregation with regard to life science (online conference)”, 令和2年9月17日。

6.関連特許(Patent)
なし。

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