利用報告書
課題番号 :S-16-MS-0003
利用形態 :共同研究
利用課題名(日本語) :高磁場NMRによるアミロイドβペプチドの重合開始機構の構造生物学的基盤の解明
Program Title (English) :Structural basis of the initiation mechanisms of fibrilization of amyloid β as revealed by high-field NMR spectroscopy
利用者名(日本語) :柳澤勝彦
Username (English) :K. Yanagisawa
所属名(日本語) :国立長寿医療センター研究所
Affiliation (English) :National Center for Geriatrics and Gerontology
1.概要(Summary )
アルツハイマー病の発症には神経細胞へのアミロイドβペプチド(Aβ)の凝集・沈着が深く関わっている。申請者は、神経細胞膜に豊富に存在する糖脂質ガングリオシドGM1と結合したAβがGM1-Aβ複合体を形成し、それが核となってAβの凝集・沈着が促進されることをすでに報告している。しかし、GM1-Aβ複合体の形成過程およびその凝集メカニズムは未だ明らかとはなっていない。これまでに、アミロイド線維の線維末端にGM1-Aβ構造と同様かつ特異な柔構造が形成されることが示唆されてきているが、これまでGM1-Aβ構造や線維末端の構造を原子レベルで観測することはできていない。この構造を捉えることは、アミロイド線維形成のメカニズムの理解と線維形成阻害剤の設計に重要である。一方で、申請者のグループによって取得された抗GM1-Aβ抗体4396CはAβのアミロイド線維末端の構造を認識して捕捉することが明らかとなっている。そこで、本課題では4396C抗体をツールとして用いて構造生物学研究を遂行し、GM1-Aβ構造の実体解明を目指した。具体的には、安定同位体利用NMR分光法を主体とする生物物理学的アプローチにより、4396CとAβの相互作用を解析することを目指した。さらに、Aβの凝集を阻害する低分子化合物とAβとのNMR相互作用解析に取り組んだ。
2.実験(Experimental)
・利用した主な装置:800MHz NMR装置
4396Cの大量発現系の構築および試料調製を行った。15N標識Aβ(1-40)のNMRスペクトルの変化を指標に、 4396CとAβ(1-40)の相互作用解析を実施した。また、ガングリオシドミセル存在下において、低分子化合物とAβとの相互作用解析を実施した。
3.結果と考察(Results and Discussion)
4396C の大量発現株の調製および培養条件の最適化を行い、4396Cの10mg/Lの高発現に成功した。15N標識Aβ(1-40)の1H-15N HSQCスペクトルの変化を指標に、 4396CとAβ(1-40)の相互作用解析を実施した。Aβ(1-40)に対してモル比が1:10となるように4396Cを過剰に添加し、NMR計測を行い、Aβ(1-40)単独のスペクトルと比較した。その結果、4396Cの添加に伴い、部位特異的なHSQCピークの強度減弱が認められた。一方、15N標識Aβ(1-40)の1H-15N HSQC スペクトルの変化を指標に、ガングリオシドミセル存在下におけるAβ(1-40)とAβの凝集阻害能を有する候補化合物との相互作用解析を試みた。その結果、Aβ(1-40)のスペクトル変化を指標に結合評価を実施できる可能性を示すことができた。
4.その他・特記事項(Others)
本研究は矢木真穂博士, 加藤晃一博士(岡崎統合バイオサイエンスセンター)との共同研究として実施した。
5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
(1) 矢木真穂, 分子研若手の会, 平成28年7月22日.
(2) M. Yagi-Utsumi, K. Kato, the 17th International Conference on Magnetic Resonance in Biological Systems, 平成28年8月26日.
6.関連特許(Patent)
なし。







