利用報告書

NHC-Pd触媒的キラルアルデヒドへの芳香族トリオールボレートカリウムの無塩基条件下  1,2-付加反応の検討
白井 隆一, 榎本 光伯
同志社女子大学薬学部

課題番号(Application Number):S-15-NR-0018
利用形態(Type of Service):共同研究
利用課題名(日本語) :NHC-Pd触媒的キラルアルデヒドへの芳香族トリオールボレートカリウムの無塩基条件下  1,2-付加反応の検討
Program Title (English) :1,2-Addition of organoboronic acid derivatives to aldehydes under base-less condition
利用者名(日本語) :白井 隆一, 榎本 光伯
Username (English) :Ryuichi Shirai, Terumichi Enomoto
所属名(日本語) :同志社女子大学薬学部
Affiliation (English) :Faculty of pharmaceutical sciences, Doshisha Women’s College of Liberal Arts

1.概要(Summary)
有機ボロン酸試薬は、鈴木-宮浦カップリング反応やアルデヒドへの1,2-付加に用いられ、温和な条件で活性が高く、水中・空気中で安定であることから、極めて有用な反応試薬である。しかし、多くのボロン酸は脱水三量化して環状無水物となるため、大過剰のボロン酸が必要となる。また、有機ボロン酸試薬を活性化させるために塩基を加えて反応を行うことは避けられず、場合によってはその塩基性により反応基質が変質する。そのような背景のもと、宮浦らはアート型錯体構造のホウ素試薬である有機環状トリオールボレート塩を開発している。これは既にホウ素が活性化された格好であるため、Pd 触媒を用いたクロスカップリング反応では塩基の添加が不要で、さらに、水系・非水系どちらの溶媒中でも使用可能という特長を持つ。
一方、当研究室は独自に開発した含窒素複素環カルベン(NHC)-Pd錯体が、有機ボロン酸のアルデヒドへの1,2-付加を極めて高効率に触媒することを見出している。この反応では、上記の理由から過剰のボロン酸および塩基(CsF)を用いており、特に、塩基はボロン酸の活性化のほかに触媒調製段階でのカルベン生成に不可欠である。そこで、本研究では、有機環状トリオールボレート塩はボレートとアルコキシドの平衡状態を有し、そのときpKa 16程度の塩基として機能すると仮定して、無塩基条件下、有機環状トリオールボレート塩を用いたアルデヒドへの1,2-付加を検討することにした。

2.実験(Experimental)
アルゴン雰囲気下、封管中に配位子(NHC前駆体)(1 mol%)、[Pd(Allyl)Cl]2 (0.5 mol%)、2-Naphthaldehyde (1 mmol)、Phenylcyclic triol-borate potassium (1.05 eq.)を入れ、各種溶媒(2.5 mL)に懸濁させ、100℃で1時間加熱した。その後、反応液に飽和NH4Cl水溶液 (1 mL) 、水 (10 mL)を順次加え、CH2Cl2 (20 mL x3)で抽出した。合わせた有機相をBrineで洗浄し、無水MgSO4で乾燥させ、エバポレータで溶媒を除去した。得られた粗生成物はカラムクロマトグラフィーで分離し、目的の付加体を得た。
 精製した付加体について各種分光分析、および質量分析計による測定を行い、化合物を同定した。

3.結果と考察(Results and Discussion)
 最適化条件の検討を行った(Table 1)。Entries 1~6では配位子の検討を行った。それぞれで大きな変化は見られなかったが、最も収率の高いL5を以降用いることとした(Entry 5)。次に、トリオールボレート塩を過剰に用いてみたが、期待したほど収率に影響を与えなかった(Entry 7)。そこで、Entries 8-13では溶媒を検討
した。エーテル系(Entries 8-10)では極性が大きいほど収率が改善されることから、Entries 11-13では高極性溶媒を試したところ、予想外にもPdに配位する可能性があるDMSOを用いたときに最も良好な収率を与えた(Entry 13)。最後に、Entry 14では反応濃度を0.4 Mから0.8 Mに上げてみたが、大きな変化は観測されなかった。そこで、現段階では、1 mmolの2-Naphth-aldehydeに対して、配位子としてL5を用い、1.05 eq.の有機環状トリオールボレート塩を2.5 mL のDMSO中で反応させたときが最適条件であると決定した。
 なお、塩基を全く加えずとも反応が良好に進行したことから、予想通り、小過剰の有機環状トリオールボレート塩が塩基として働いているものと考えられる。
 現在は、求めた最適反応条件を用い、2-Naphth-aldehydeへの各種環状トリオールボレート塩の1,2-付加の検討を行っているところである。

4.その他・特記事項(Others)
なし。

5.論文・学会発表(Publication/Presentation)
なし。

6.関連特許(Patent)
なし。

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